猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

RTIの解説論文

Fuchs, D., & Fuchs, L. S. (2006). Introduction to Response to Intervention: What, why, and how valid is it? Reading Research Quarterly, 41, 93-99.
Introduction to response to intervention: What, why, and how valid is it? - FUCHS - 2006 - Reading Research Quarterly - Wiley Online Library


RTI(Response to Intervention)というと、私は海津先生のMIMしか知らなかったのだが、そもそもこれがどういう経緯で出てきたのかが知りたくて読んだ。

RTIが読みの早期指導に焦点を当てている背景に、アメリカでブッシュ政権のときに成立したNo Child Left BehindやらReading Firstなどの政策の影響を受けている事情などが書かれている。

ただ、10年以上前の論文なので今がどうなっているかは知らない。

『Rによるやさしい統計学』の感想及びサンプルデータ

Rによるやさしい統計学

Rによるやさしい統計学


『Rによるやさしい統計学』を一通り読み終えた。Rという言語そのものへの入門と統計学への入門のちょうど間のような本。折衷的ではあるがとてもバランスが良い本だと感じた。

全部で20章からなり、前半の7章は基本編、後半の13章が応用編と位置づけられている。前半では、Rのインストールから始まり、Rを操作しながら記述統計、2変数の記述、母集団と標本、統計的検定、t検定や分散分析などの平均値差の検定が続く。Rには、各種検定を行なう関数があるが、検定で何を行っているかの理解を深めるためにあえて統計量の計算などを一つひとつRのコンソール上で実行していくので、各種検定がデータにどのような処理をしているか手を動かしながら学ぶことができる。

後半では、トピック毎に必要となるR上での操作が紹介されている。因子分析や共分散構造分析、人口データの発生や検定力分析など多様なトピックを扱っているが説明はとても簡素。必要な関数やパッケージなどのハウツーの紹介に近いので、それらの手法の理屈や理論については別途学ぶ必要があるだろうが、とりあえずRで実際に分析を行なうことができるようになるところまで最短距離で目指す感じではある。

この本の、統計学的な解説と実際の手を動かす実務的な部分のバランス感覚というのが私にとってはちょうど良かった。統計学の基本的な教科書を読み、基本的な検定や推定については一通り学んだものの、どこからしっくり来ていないような状態。そんな人こそ、この本をからは得るものが多いと思う。実際にデータを発生させたり、計算したり、グラフなどで視覚的に表現したりとアレコレといじってみることはとても勉強になる。実際のデータとの対応の中で教科書的な知識が具体的に意味を持ってきて、統計についての理解が素人なりにではあるが深まったと思う。

さて、本の中で使用するデータがあるのだが、これをいちいち打ち込むのは面倒だったのでネットで探すと公開されているものが見つかった。以下にリンクを張っておくので、この本を使って勉強するときには活用すると良いでしょう。


・2章から7章で使う指導法データ
・13章で使うプリポストデザイン
・15章で使う重回帰のデータ
・16章でデータを発生させるスクリプト
  社会統計演習

・10章で使う、体重と脳の重さのデータ
  外れ値が相関関係に及ぼす影響を調べる - Qiita

動く三角形のアニメーション

フリスによる『自閉症の謎を解き明かす 新訂版』(東京書籍)の11章に脳画像研究についての概説がある。

新訂 自閉症の謎を解き明かす

新訂 自閉症の謎を解き明かす


その中に紹介されている、Castelliらによる研究では、人間のような動きをする三角形が登場するアニメーションが刺激として使われている。それらのアニメーションを見ている最中の脳の状態を統制群と自閉症群で比べて、心理化(mentalizing)に関連すると言われる脳部位の活性に違いがあったことが報告されている。

Autism, Asperger syndrome and brain mechanisms for the attribution of mental states to animated shapes | Brain | Oxford Academic


フリスのホームページに使われたアニメーションのサンプルが置いてあり見ることができるのだが、三角形が人っぽく動くさまがかわいいと思う(研究結果にはあまり関係のない話ですけど)。

Research - Uta Frith

心理検査の標準化とサンプル数

服部 環, 藤田 和弘, 石隈 利紀, 青山 眞二, 熊谷 恵子, 小野 純平(2014).日本版KABC-IIの尺度構成と標準化. 日本教育心理学会総会発表論文集 (56), 276, 2014-10-26

CiNii 論文 -  PB023 日本版KABC-IIの尺度構成と標準化(測定・評価・研究法,ポスター発表B)

日本版K-ABC-Ⅱの標準化の際に用いたサンプルについての報告。全体としてのサンプル数は2587名で、年齢を6ヶ月ごとに区切ると、それぞれのサンプル数は平均78.4名であったと報告されている。

適応年齢が広がれば広がるほどサンプル数も必要になり、その分お金も時間もよりかかる訳である。検査内容の流出に厳しかったり、検査キットの値段が高かったりするのももっともな話だなぁと思う。

山田剛史他『Rによるやさしい統計学』

Rによるやさしい統計学

Rによるやさしい統計学

最近この本を読んでいるがとても良い。特に、標本分布などを実際にデータを発生させて確認できる点。理論的に求められる確率分布を「経験的に近似」できるので、他の統計の教科書で言われていることが腑に落ちる感覚。

ただ統計で使われる各種概念についての説明は簡素なので1冊目にこれを持ってくるときついだろう。言われたとおりにコマンドを打ち込んでいるだけだと、結局それが統計的に何をやっているのか分からなくなるかもしれないので、他の定評あるテキストを読んだ後に自分でデータを発生させたりいじってみるのがオススメ。

アメリカ知的発達障害学会

アメリカ知的発達障害学会(と訳すのかは知らないけどAAIDD)のホームページを見ていると、色んな研究があるんだなぁと勉強になる。無料で見れる記事やら講義やらがとても充実している。

aaidd.org

旭出学園教育研究所編『S-M社会生活能力検査の活用と事例-社会適応性の支援に活かすアセスメント』

S-M社会生活能力検査の活用と事例 ‐社会適応性の支援に活かすアセスメント‐

S-M社会生活能力検査の活用と事例 ‐社会適応性の支援に活かすアセスメント‐

まず印象に残ったことは、この検査から分かることはあくまで社会生活能力のおおまかな指標なのだということ。これ単体で何か有効な結論が出せるかというとなかなか難しく、実際の支援のためには他のアセスメントや普段の行動の聞き取り、行動観察など様々な情報を総合的に解釈して行なう必要がある。本書に収められている20の事例もそのように解釈を行っていたと思う。

特に、検査室で行なう心理検査での値と比べて、社会生活能力指数がそれより高かったり低かったりする事例もあり、アセスメントに厚みを持たせるために、WISCやビネーなんかとバッテリーを組ませると良いなぁと思った。

1部の検査概要部分にも書いてあるが介入効果の検証みたいな目的だと、成長に伴う自然な変動なのか、介入の効果なのか分けて考えることが難しいだろうが、比較的長いスパンで教育プログラムの全般的な効果の測定といったような文脈だと使いやすかいもしれない。実施にかかるコストも小さいし。

本書の直接的な内容ではないのだが、ASA検査も使い勝手が良さそうだと思った。自分は扱ったことないけど。とくに、発達障害や知的な遅れが少ない児童生徒なんかは支援につながりやすいのでは、と思う。

以下、自分のためのメモ。

S-M社会生活能力検査は社会生活のおおよその発達水準や個人内差を捉えるための初期アセスメントとして位置づけられるものであり、(...) p.5

AAIDDによる適応スキルの3領域に分けた整理 p.9

AAIDD(2010)は、この考え方[問題行動が、与えられた環境条件に対して実は「適応的」に機能しているということ]が高い知的機能の人には適用されないことが多いとしており、(...) p.11

[社会生活年令は]各領域の項目数がそれほど多くないため、非常に大ざっぱな尺度であり、おおよその発達レベルを見るにとどめるべきである。p.15

このような、構造化された場面で示すことのできる能力を、日常場面で応用する力の弱い事例に対し、多岐にわたるライフスキルの指導を効果的に行なうには、ある程度枠組みがはっきりしたシンプルな環境の中でスキルの基本を身につけることが求められる。それに加えて特別支援学校のように、日常場面で応用する場面を個に配慮しつつ設定できる環境の中で教育を受ける機会が必要だったのではないだろうか。本事例のように知的レベルと社会生活能力がかけ離れている場合、そのバランスを考慮して進路を選ぶためには、社会生活能力は軽視されてはならない。p.104