南風原ほか編『心理学研究法入門』
- 作者: 南風原朝和,下山晴彦,市川伸一
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2001/03
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 32回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
大変勉強になる本だった。
調査、実験、実践と心理学研究の方法がそれぞれコンパクトにまとまっている。各章それぞれで扱われるトピックついての記述が分かりやすいのもとても良い点だと思うが、この本の最大の売りはそれぞれの研究法が持つ特色を対比させることによって、各方法論の強みや弱点を理解させる作りになっていることに思う。
『心理統計学の基礎』を読んだときにも感じたのだけれど、南風原先生の書くテキストは各論と総論のつながりを大事にしながら基礎を深めさせる作りになっていて素晴らしい。知っている気になっていた事柄でも新しい発見があり、読むと目から鱗が落ちるような気持ちになることが多い読書だった。
ある独立変数の影響を取り除く話
以前の記事、公立特別支援学校教員の平均勤続年齢と平均給与月額のグラフを描いた。
そこでは、平均勤続年数が長い都道府県ほど、平均月額給与が高いという至極当然の結果であった。
今回はその延長線のような話。
勤続年数の影響を取り除いた上で、給与が高い都道府県を知りたいとする。
回帰分析では、従属変数yを、独立変数xと完全に相関する部分(予測値)とxとは完全に無相関の部分(残差)の2つに分解をしている訳なので、残差を取り出せばある変数の影響を取り除くことができるはずである。
というわけで、前回のデータを加工してみる。
とりあえず回帰モデルから残差のデータを作る。
> 回帰結果 <- lm(平均給与月額 ~ 平均勤続年数) > 残差 <- residuals(回帰結果)
当然、残差と平均勤続年数の相関は0になる。
> cor(残差,平均勤続年数)
その後の作業を見やすくするために、都道府県と残差のデータフレームを作って、order関数で並べ替える。
> 都道府県と残差 <- data.frame(都道府県,残差) > 都道府県と残差[order(都道府県と残差$残差), ]
で出てきたのがこの順番。
都道府県 残差 38 愛 媛 -22.62874924 25 滋 賀 -22.03543718 42 長 崎 -17.71294516 40 福 岡 -16.88999525 20 長 野 -15.91871732 26 京 都 -13.39956927 8 茨 城 -11.30625721 41 佐 賀 -9.30245535 32 島 根 -8.80002716 19 山 梨 -8.57084720 3 岩 手 -6.75124126 47 沖 縄 -6.13255110 43 熊 本 -5.52251918 16 富 山 -5.33497929 12 千 葉 -4.48710917 17 石 川 -4.38330730 10 群 馬 -3.93163532 1 北海道 -3.82251918 46 鹿児島 -2.39045314 35 山 口 -1.86993142 44 大 分 -1.84789729 45 宮 崎 -1.82874924 30 和歌山 -1.69668319 39 高 知 -1.30579932 29 奈 良 0.06790679 22 静 岡 0.22246486 21 岐 阜 0.33872683 24 三 重 0.78128268 18 福 井 0.79085670 6 山 形 0.81334873 11 埼 玉 1.38416876 14 神奈川 1.84541477 28 兵 庫 3.43295467 7 福 島 5.66456282 33 岡 山 6.53918472 36 徳 島 6.73538286 9 栃 木 7.03249677 27 大 阪 7.35453090 31 鳥 取 10.14541477 34 広 島 11.32626672 23 愛 知 14.99997284 2 青 森 15.67748082 4 宮 城 16.56547860 37 香 川 19.39420068 13 東 京 19.91912089 5 秋 田 20.90954686 15 新 潟 25.92961069
平均勤続年数の影響を取り除いた上で、給与が高いのは新潟らしい。
だから、なんだという話ではあるのだが。
佐藤暁『発達障害のある子の困り感に寄り添う支援』
発達障害のある子の困り感に寄り添う支援 (学研のヒューマンケアブックス)
- 作者: 佐藤暁
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2004/08/24
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
同じ著者の『自閉症児の困り感に寄り添う支援』がとっても良かったため、同じ「困り感」シリーズであるこの本を手にとってみた。
『自閉症児の〜』ほどのユニークさはないものの、発達障害のある人の立場にたってその困り感を理解しよういう姿勢は通底している。
例えば、子どものトラブルへの対応について書かれたページでは、ABCの記録を分析することが紹介されているが、そこでは、ABCの分析は行動を制御し変容することを主たる目的としている訳でなく、あくまで困り感を理解するための補助として役割を担っている。そして、困り感を軽減する対応を通じて問題の解決を図ろうとしており、同じABC分析でも純粋なABA的な考えとは大分違った印象を受ける。
また、発達障害児を学級などの集団の中において理解し支援しようとしているのもこの本の特色だと思う。特別支援関係の本は、とかく子ども一人ひとりをどう理解して支援するかという話に終止しがちだ。だが、この本では学級集団を育てる中でどう支援を行なうのかであったり、周りの子どもとその保護者へどう対応するかであったりと、発達障害のある子を個人として独立にとりあげるのでなく、学校生活の現実に即した形で理解し支援をする方法を紹介している。特別支援教育臨床を専門と掲げ、多数の学校を訪ねて支援の在り方を研究してきた著者だからこそ書けるような本なのだろう。
あとがきにはつぎのように書いてある。
「組織的支援」の重要性が強調されている。特別支援教育コーディネーターや校内委員会を設置することはけっこうである。しかしより大切なのは、学校の教育活動全体を組織化することではないだろうか。「組織的支援」には、「個の子どもの支援にかかわる組織化」と「教育活動全般にわたる組織化」の両方が必要である。このことが、この本を送り出す現時点で著者がたどり着いた、とりあえずの結論である。(p.189)
通常級の担任の先生から、特別支援教育コーディネーターや支援学校の先生など、幅広くオススメできる本である。(ただ絶版ぽいのではありますが・・・)
散布図にラベルをつけて遊んでみる
意味はよく分からないけどグラフを描いてみようのコーナー。
せっかくRについて入門したのだから適当なデータを適当にグラフにしてみるだけして遊んでみます。そのグラフが何を意味するのか等はとりあえず置いておいて。
今回使うデータはこれ。
平成25年度実施の「学校教員統計調査」の中にある公立特別支援学校教員の都道府県別本務教員の平均勤務年数・平均週教科等担任授業時数・平均給料月額(表番号60)から必要なデータをひっぱてきます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001058725&cycode=0
エクセルファイルで表がダウンロードできるのでいらないところをちゃちゃちゃっと消してcsvで出力してRに読み込ませます。
都道府県ごとに平均勤続年数と平均給与月額を散布図で描いてみます。このとき、プロットした点にラベルがつけられると楽しいなぁということで、それ用のmaptoolsパッケージを使ってみます。
liblrary(maptools) plot(勤続年数,平均給与月額, xlab="勤続年数(年)",ylab="平均給与月額(千円)") pointLabel(勤続年数,平均給与月額, labels=都道府県)
pointLabelというのがmaptoolsに入っている関数。
で、出てきたのがこの図。
文字がやや大きいかな...
ということで文字サイズを変えて、ついでだから回帰直線も加えてリトライ。
plot(勤続年数,平均給与月額, xlab="平均勤続年数(年)",ylab="平均給与月額(千円)") pointLabel(勤続年数,平均給与月額, labels=都道府県,cex=0.8) abline(lm(平均給与月額 ~ 勤続年数))
まぁこんなところでしょう。
見て分かる通り、平均勤続年数が長い県ほど、教員の平均給与が高いです。年齢が上がれば年功序列で給与が上がっていくんだから当たり前ですね。ちなみに分散説明率0.65でした。
以下のサイトを参考にさせていただきました。
Rでラベル付き散布図を作成して保存するまで - 503 Service Unavailable
RTIの解説論文
RTI(Response to Intervention)というと、私は海津先生のMIMしか知らなかったのだが、そもそもこれがどういう経緯で出てきたのかが知りたくて読んだ。
RTIが読みの早期指導に焦点を当てている背景に、アメリカでブッシュ政権のときに成立したNo Child Left BehindやらReading Firstなどの政策の影響を受けている事情などが書かれている。
ただ、10年以上前の論文なので今がどうなっているかは知らない。
『Rによるやさしい統計学』の感想及びサンプルデータ
- 作者: 山田剛史,杉澤武俊,村井潤一郎
- 出版社/メーカー: オーム社
- 発売日: 2008/01/25
- メディア: 単行本
- 購入: 64人 クリック: 782回
- この商品を含むブログ (68件) を見る
『Rによるやさしい統計学』を一通り読み終えた。Rという言語そのものへの入門と統計学への入門のちょうど間のような本。折衷的ではあるがとてもバランスが良い本だと感じた。
全部で20章からなり、前半の7章は基本編、後半の13章が応用編と位置づけられている。前半では、Rのインストールから始まり、Rを操作しながら記述統計、2変数の記述、母集団と標本、統計的検定、t検定や分散分析などの平均値差の検定が続く。Rには、各種検定を行なう関数があるが、検定で何を行っているかの理解を深めるためにあえて統計量の計算などを一つひとつRのコンソール上で実行していくので、各種検定がデータにどのような処理をしているか手を動かしながら学ぶことができる。
後半では、トピック毎に必要となるR上での操作が紹介されている。因子分析や共分散構造分析、人口データの発生や検定力分析など多様なトピックを扱っているが説明はとても簡素。必要な関数やパッケージなどのハウツーの紹介に近いので、それらの手法の理屈や理論については別途学ぶ必要があるだろうが、とりあえずRで実際に分析を行なうことができるようになるところまで最短距離で目指す感じではある。
この本の、統計学的な解説と実際の手を動かす実務的な部分のバランス感覚というのが私にとってはちょうど良かった。統計学の基本的な教科書を読み、基本的な検定や推定については一通り学んだものの、どこからしっくり来ていないような状態。そんな人こそ、この本をからは得るものが多いと思う。実際にデータを発生させたり、計算したり、グラフなどで視覚的に表現したりとアレコレといじってみることはとても勉強になる。実際のデータとの対応の中で教科書的な知識が具体的に意味を持ってきて、統計についての理解が素人なりにではあるが深まったと思う。
さて、本の中で使用するデータがあるのだが、これをいちいち打ち込むのは面倒だったのでネットで探すと公開されているものが見つかった。以下にリンクを張っておくので、この本を使って勉強するときには活用すると良いでしょう。
・2章から7章で使う指導法データ
・13章で使うプリポストデザイン
・15章で使う重回帰のデータ
・16章でデータを発生させるスクリプト
社会統計演習
・10章で使う、体重と脳の重さのデータ
外れ値が相関関係に及ぼす影響を調べる - Qiita
動く三角形のアニメーション
フリスによる『自閉症の謎を解き明かす 新訂版』(東京書籍)の11章に脳画像研究についての概説がある。
- 作者: ウタフリス,冨田真紀,清水康夫,鈴木玲子
- 出版社/メーカー: 東京書籍
- 発売日: 2009/02/18
- メディア: ハードカバー
- クリック: 26回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
その中に紹介されている、Castelliらによる研究では、人間のような動きをする三角形が登場するアニメーションが刺激として使われている。それらのアニメーションを見ている最中の脳の状態を統制群と自閉症群で比べて、心理化(mentalizing)に関連すると言われる脳部位の活性に違いがあったことが報告されている。
フリスのホームページに使われたアニメーションのサンプルが置いてあり見ることができるのだが、三角形が人っぽく動くさまがかわいいと思う(研究結果にはあまり関係のない話ですけど)。