猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

ASD児へのPECSによる介入のメタ分析論文

Effectiveness of the Picture Exchange Communication System (PECS) on Communication and Speech for Children With Autism Spectrum Disorders: A Meta-Analysis | American Journal of Speech-Language Pathology | ASHA Publications

PECSの効果についてメタ分析を行った論文。結構面白かったので内容を簡単にまとめてみる。

分析に含まれた論文は、単一被験者の実験が7つとグループのもの3つである。独立変数にPECSを含み、従属変数として、コミュニケーションにおける効果と発語(Speech)が含まれているものが対象となっている。

コミュニケーションへの効果は、単一被験者のものでもグループのものでも小〜中程度の効果量が報告されている。しかし、これらの研究の多くはフォローアップを含まない短い期間(short-term)での効果しか測定しておらず、その効果が維持されるのかについて、また違った文脈で般化されるのかについては、結果に揺れがあり、さらなる研究が必要だと主張されている。

発語への効果については、単一被験者の研究における視覚的なグラフの読み取りと解釈だと増えていると報告されているものが多いが、グループの研究で効果量を推定すると無視できるほどの小さい結果である。このことから、単一被験者の研究における発語への効果が疑わしいものだと著者らは分析している。

また、PECSの効果に影響を与える介入前の被験者要因として、共同注意(joint attensiton)、探索行動(object exploration)、模倣(imitation)の3つの要因が影響を及ぼす可能性が示唆されているが、これについても今後の研究において関係性を解明していくことが必要だと主張されている。

In summary, the overall effectiveness of the PECS approach for communication outcomes with children with ASD is promising although not yet established. Evidence for the effectiveness of the approach on speech out comes is not as strong.(p.190)


【関連する記事】
nekomosyakushimo.hatenablog.com

グラフの視覚的な読み取りについて英語で言うと...

Focus on Autism and Developmental Disablitiesの最新号のabstractを流し読みしていたら、次のような書き方を見つける。

According to the visual analyses, students performed better with adapted and interactive video clips.


Evmenova, Graff, Behrmannによる、 Providing Access to Academic Content for High-School Students With Significant Intellectual Disability Through Interactive Videos. という論文。



単一事例実験のデータは伝統的に統計的な方法では分析せず、グラフの読み取りから行なう。

B. F. Skinner以来の伝統で、単一事例実験のデータは統計的方法に頼らず、グラフの読み取りによって解釈されてきており、現在も基本的にそう状況に変わりはない。すなわち、処遇の効果がグラフから一目瞭然であれば特に統計的分析を加えなくてもよいというのが、単一事例実験家の中での基本的な了解事項となっている。
『心理学研究法入門』(東京大学出版)pp.149-150

このグラフの視覚的な読みとりを英語で書くと "According to the visual analyses"になるようだ。

多層プローブデザインについて

単一事例研究の中に多層プローブデザインというものがある。これは、多層ベースラインデザインの一種である。簡単に言えば、一つの層が介入条件にあるときには、介入をしない他の層では測定をしないデザインである。そして、新しい条件が加わえられる時点でプローブと呼ばれる介入条件を含まないテスト試行を全ての層で行い、別の層に介入条件を設定するのである。

これによって、介入がないのにベースラインの測定が続けられる(例えば、できない問題を繰り返し出され続けるなど)という多層ベースラインデザインの欠点がカバーされ、対象者に測定の過度な負担をかけずに済むようである。

以下のビデオは非常に分かりやすく参考になる。


Multiple Probe Design


710 06 Multiple Baseline_Multiple Probe Designs


ちなみに、『障害科学の研究法』(明石書店)に載っているグラフ(p.111)だと、介入条件の時に収集されたデータがプロットされていないため、その他の層でデータをとらないということがやや分かりづらい。

ちなみにちなみにprobeとは『探り針』のことで歯医者とかで使われる先のとがったやつのことのようで、google画層検索するとそれらしいのがたくさん出てくる。

南風原ほか編『心理学研究法入門』

心理学研究法入門―調査・実験から実践まで

心理学研究法入門―調査・実験から実践まで

大変勉強になる本だった。

調査、実験、実践と心理学研究の方法がそれぞれコンパクトにまとまっている。各章それぞれで扱われるトピックついての記述が分かりやすいのもとても良い点だと思うが、この本の最大の売りはそれぞれの研究法が持つ特色を対比させることによって、各方法論の強みや弱点を理解させる作りになっていることに思う。

『心理統計学の基礎』を読んだときにも感じたのだけれど、南風原先生の書くテキストは各論と総論のつながりを大事にしながら基礎を深めさせる作りになっていて素晴らしい。知っている気になっていた事柄でも新しい発見があり、読むと目から鱗が落ちるような気持ちになることが多い読書だった。

ある独立変数の影響を取り除く話

以前の記事、公立特別支援学校教員の平均勤続年齢と平均給与月額のグラフを描いた。

散布図にラベルをつけて遊んでみる - 猫も杓子も構造化

そこでは、平均勤続年数が長い都道府県ほど、平均月額給与が高いという至極当然の結果であった。
今回はその延長線のような話。

勤続年数の影響を取り除いた上で、給与が高い都道府県を知りたいとする。

回帰分析では、従属変数yを、独立変数xと完全に相関する部分(予測値)xとは完全に無相関の部分(残差)の2つに分解をしている訳なので、残差を取り出せばある変数の影響を取り除くことができるはずである。

というわけで、前回のデータを加工してみる。

とりあえず回帰モデルから残差のデータを作る。

> 回帰結果 <- lm(平均給与月額 ~ 平均勤続年数)
> 残差 <- residuals(回帰結果)

当然、残差と平均勤続年数の相関は0になる。

> cor(残差,平均勤続年数)

その後の作業を見やすくするために、都道府県と残差のデータフレームを作って、order関数で並べ替える。

> 都道府県と残差 <- data.frame(都道府県,残差)
> 都道府県と残差[order(都道府県と残差$残差), ]

で出てきたのがこの順番。

   都道府県         残差
38  愛   媛 -22.62874924
25  滋   賀 -22.03543718
42  長   崎 -17.71294516
40  福   岡 -16.88999525
20  長   野 -15.91871732
26  京   都 -13.39956927
8   茨   城 -11.30625721
41  佐   賀  -9.30245535
32  島   根  -8.80002716
19  山   梨  -8.57084720
3   岩   手  -6.75124126
47  沖   縄  -6.13255110
43  熊   本  -5.52251918
16  富   山  -5.33497929
12  千   葉  -4.48710917
17  石   川  -4.38330730
10  群   馬  -3.93163532
1    北海道  -3.82251918
46   鹿児島  -2.39045314
35  山   口  -1.86993142
44  大   分  -1.84789729
45  宮   崎  -1.82874924
30   和歌山  -1.69668319
39  高   知  -1.30579932
29  奈   良   0.06790679
22  静   岡   0.22246486
21  岐   阜   0.33872683
24  三   重   0.78128268
18  福   井   0.79085670
6   山   形   0.81334873
11  埼   玉   1.38416876
14   神奈川   1.84541477
28  兵   庫   3.43295467
7   福   島   5.66456282
33  岡   山   6.53918472
36  徳   島   6.73538286
9   栃   木   7.03249677
27  大   阪   7.35453090
31  鳥   取  10.14541477
34  広   島  11.32626672
23  愛   知  14.99997284
2   青   森  15.67748082
4   宮   城  16.56547860
37  香   川  19.39420068
13  東   京  19.91912089
5   秋   田  20.90954686
15  新   潟  25.92961069

平均勤続年数の影響を取り除いた上で、給与が高いのは新潟らしい。
だから、なんだという話ではあるのだが。


参考にしたサイト
統計的消去で擬似相関を見抜こう! - ほくそ笑む
ああああ: R: sort と order の違い

佐藤暁『発達障害のある子の困り感に寄り添う支援』

同じ著者の『自閉症児の困り感に寄り添う支援』がとっても良かったため、同じ「困り感」シリーズであるこの本を手にとってみた。

自閉症児の〜』ほどのユニークさはないものの、発達障害のある人の立場にたってその困り感を理解しよういう姿勢は通底している。

例えば、子どものトラブルへの対応について書かれたページでは、ABCの記録を分析することが紹介されているが、そこでは、ABCの分析は行動を制御し変容することを主たる目的としている訳でなく、あくまで困り感を理解するための補助として役割を担っている。そして、困り感を軽減する対応を通じて問題の解決を図ろうとしており、同じABC分析でも純粋なABA的な考えとは大分違った印象を受ける。

また、発達障害児を学級などの集団の中において理解し支援しようとしているのもこの本の特色だと思う。特別支援関係の本は、とかく子ども一人ひとりをどう理解して支援するかという話に終止しがちだ。だが、この本では学級集団を育てる中でどう支援を行なうのかであったり、周りの子どもとその保護者へどう対応するかであったりと、発達障害のある子を個人として独立にとりあげるのでなく、学校生活の現実に即した形で理解し支援をする方法を紹介している。特別支援教育臨床を専門と掲げ、多数の学校を訪ねて支援の在り方を研究してきた著者だからこそ書けるような本なのだろう。

あとがきにはつぎのように書いてある。

「組織的支援」の重要性が強調されている。特別支援教育コーディネーターや校内委員会を設置することはけっこうである。しかしより大切なのは、学校の教育活動全体を組織化することではないだろうか。「組織的支援」には、「個の子どもの支援にかかわる組織化」と「教育活動全般にわたる組織化」の両方が必要である。このことが、この本を送り出す現時点で著者がたどり着いた、とりあえずの結論である。(p.189)

通常級の担任の先生から、特別支援教育コーディネーターや支援学校の先生など、幅広くオススメできる本である。(ただ絶版ぽいのではありますが・・・)

【関連】
nekomosyakushimo.hatenablog.com

散布図にラベルをつけて遊んでみる

意味はよく分からないけどグラフを描いてみようのコーナー。

せっかくRについて入門したのだから適当なデータを適当にグラフにしてみるだけして遊んでみます。そのグラフが何を意味するのか等はとりあえず置いておいて。

今回使うデータはこれ。

平成25年度実施の「学校教員統計調査」の中にある公立特別支援学校教員の都道府県別本務教員の平均勤務年数・平均週教科等担任授業時数・平均給料月額(表番号60)から必要なデータをひっぱてきます。

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001058725&cycode=0

エクセルファイルで表がダウンロードできるのでいらないところをちゃちゃちゃっと消してcsvで出力してRに読み込ませます。

都道府県ごとに平均勤続年数と平均給与月額を散布図で描いてみます。このとき、プロットした点にラベルがつけられると楽しいなぁということで、それ用のmaptoolsパッケージを使ってみます。

liblrary(maptools)

plot(勤続年数,平均給与月額, xlab="勤続年数(年)",ylab="平均給与月額(千円)")
pointLabel(勤続年数,平均給与月額, labels=都道府県)

pointLabelというのがmaptoolsに入っている関数。

で、出てきたのがこの図。

f:id:nekomosyakushimo:20170219223542p:plain

文字がやや大きいかな...

ということで文字サイズを変えて、ついでだから回帰直線も加えてリトライ。

plot(勤続年数,平均給与月額, xlab="平均勤続年数(年)",ylab="平均給与月額(千円)")
pointLabel(勤続年数,平均給与月額, labels=都道府県,cex=0.8)
abline(lm(平均給与月額 ~ 勤続年数))

f:id:nekomosyakushimo:20170219223601p:plain

まぁこんなところでしょう。

見て分かる通り、平均勤続年数が長い県ほど、教員の平均給与が高いです。年齢が上がれば年功序列で給与が上がっていくんだから当たり前ですね。ちなみに分散説明率0.65でした。


以下のサイトを参考にさせていただきました。
Rでラベル付き散布図を作成して保存するまで - 503 Service Unavailable