猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

ダブルフラッシュ錯覚

ダブルフラッシュ錯覚というものがあるそうだ。これは、短時間点灯する光刺激に合わせて2回短い音を鳴らすと、実際には1回しか点灯していないのに点滅しているように感じられるものらしい。flush-beep illusionとかsound induced illusionと言う風にも呼ばれているみたい。

多分リンク先のものを見ていただいたほうか分かりやすいかな。

Sound-Induced Flash Illusion - The Illusions Index

ちなみに、光刺激が1回で音を2回鳴らす今みたいな錯覚をfission illusion(fissionは分裂の意味)と言い、光刺激が2回で音を1回鳴らす錯覚をfusion illusion(fusionは融合の意味)とか言ったりもするらしい。

Frontiers | The sound-induced flash illusion reveals dissociable age-related effects in multisensory integration | Frontiers in Aging Neuroscience


こういう視聴覚統合の錯覚の現象も研究されているので錯覚の世界は奥が深いですね。

ローズ『平均思考は捨てなさい』

平均思考は捨てなさい

平均思考は捨てなさい

統計関係でお世話になっている先生からの紹介で読み始めた。タイトルとかカバーとかは胡散臭い自己啓発本っぽいのだけれども、まともなことが書いてあるし、訳が良いのか大変読みやすい。著者の言う「平均思考」とは、平均値のみを基準にものごとを捉える思考の枠組みのことで、この考え方は私達の社会に深く根付いているが、その捉え方では多様で複雑な人間を理解することはできないと言う。

3部構成から成っており、1部では「そもそも我々の社会がどのように平均というアイデアを取り入れていったのか」についての歴史的考証がなされる。扱われる人物は、ケトレーであったりゴルトンであったりソーンダイクであったり、ちゃんと史資料に基づいて論じている。第2部では、平均思考に変わるものとして個性学を提案し、その3つ原則として「ばらつきの原理」「コンテクストの原理」「迂回路の原理」が紹介される。3部ではこの考えにもとづき、個性を活かすことに成功している企業や高等教育のプログラムが紹介され、平均思考と離れて個性を活かすための方法が説かれている。(ここらへんはやや自己啓発本感が出ている)

自己啓発的な内容にはほとんど関心がないのだけれども、自分が学んでいる心理学であったり、障害児者支援の実践と関連付けながら読んでいた。

2部で「コンテクストの原理」というのが紹介される。これは、人間の特性は環境によって変わるものであって、人間の内側に本質的な性格特性は存在しないという主張だ。コンテクストの原理に従えば、人間の振る舞いは「イフ・ゼン」として記述されるべきものであり、「▲▲な場面ならば〇〇」のように人間は状況によって特性を変えるということである。日本語で読めるものだと、サトウらの『モード性格論』であったり、もう少し専門的なところに行くと性格の一貫性論について書かれた渡邊の『性格とはなんだったのか』あたりで詳しく論じられていたと記憶している。

心理学で用いられる多くの尺度というものは構成概念を測るものなのだけれども、この構成概念はどれだけコンテクストの影響を考慮してきたかということをぼんやりと考えてながら読んでいた。状況を超えて一貫しない「心的な何か」を測っているのだとすれば、その尺度は一体何を測っているのだ、という話になってくるだろう。因子分析の結果、ほげほげの因子構造が確認されたといっているけど、その特性は本当にその人の持ち物なのか、というような話。

それとこの話を読みながら思い出していたのは、ASDの人の成人生活への移行のためのアセスメントであるTTAPについてである。TTAPでは直接観察/家庭/学校(作業所)という3つの異なるコンテクストにおけるスキルの達成度合いを評価している。「□□な(構造化された)場面ならば△△ができる」というのはまさに「イフ・ゼン」の考え方で、ASDの人は環境によってパフォーマンスが変わることに早期から気づいていたからこそのアセスメントの設計なのだろう。(その点で、従来の職業アセスメントはコンテクストの状況を無視して一次元的あるいは本質主義的な評価であったため、個性を生かすということにつながらなかったのだろう。)

「ばらつきの原理」というものも紹介されている。人はみなそれぞれ平均的であったり、平均から離れていたり特徴を持っており、個人のなかにもばらつきがある。そんな人間を多次元に測定を行なう(例えば、頭のサイズ、足の大きさ、手の長さ、指の長さ、などなど)と全ての面で平均的な「平均人」というものは存在しないということが明らかにされている。平均思考の問題点として、平均人に合わせた設計は「だれにもフィットしない」設計になってしまうことが紹介されていた。

学校教育のようなものを考えると、この「平均人」に合うようにカリキュラムが作られているので、結果として誰にもフィットしていない学校教育が提供されているのだろうと思う。算数が得意な人が必ずしも図画工作が得意な訳ではないが、多くの学校で一律に同じペースで硬直したカリキュラムで学ぶことを強いられる。UDLの人の主張なんかを思い出しながら、読んでいた。

読みやすくて結構考えるテーマの多い本であるので、タイトルの胡散臭さに惑わされずに読んでみると良いかもしれません。


【記事中で言及したもの】

「モード性格」論―心理学のかしこい使い方

「モード性格」論―心理学のかしこい使い方

性格とはなんだったのか―心理学と日常概念

性格とはなんだったのか―心理学と日常概念

Rによる楽しい自動処理(入門の入門編)

実験を実施した結果、一つのフォルダに複数の.csvファイルが保存されたりする。サンプルサイズが小さかったり、処理が複雑でなければそれぞれを開いて手作業でやっても良いが、数が多くなってくると大変に時間がかかるので単純作業は機械にやらせると良い。

例えばある実験を行い、個人からAという条件で10試行、Bという条件で10試行、合計で20の測定値が得られ、次のような表としてデータがあるとする。ファイル名は「test_被験者番号.csv」のような形で、outputというフォルダ内に保存され、「test_01.csv」から「test_50.csv」という名前で保存されているとしよう。

試行 条件 測定値
1 A 4.235843
2 A 4.942701
3 A 7.572396
18 B 2.082112
19 B 6.162287
20 B 3.459146

ここで、個人の条件毎の平均を知りたいとする。csvをエクセルかなんかで開いて関数で計算させるという作業でもできないことはないが、50人×2条件 = 100回も手作業でやるのは馬鹿げている。

とりあえず、データを読み込み平均を計算する部分を作ってみよう。測定値はすべて3列目に入っていて、1-10行目までがA条件、11-20行目までがB条件なので、それを指定するだけである。

dat <- read.csv("output/test_01.csv", header=T)

mean_a <- mean(dat[1:10, 3]
mean_b <- mean(dat[11:20, 3]

これをもとにして、読み取るデータファイルを次々に変えていきながら結果をベクトルに保存するようにプログラムを書けば良い。forとループ変数を使った繰り返しでファイル名変えていくことにする。

for(i in 1:50){
    id <- formatC(i,width=2, flag="0")  # 数字を桁を揃えて文字列に
    filename <- paste("output/test_", id, ".csv", sep="")
}

まず、ループ変数は数値データであるので、これをformatC関数を使って文字列に変換するとともに0を詰めた2桁になるようにしている。ちなみにwidthの値を変えると桁数、flagの値を変えると詰める文字の種類を選べる。次に、文字列を結合するpaste関数を使って読み取るファイル名を完成させる。引数のsepに""を指定することで結合するときに空白を入れずに結合できる。

あとは先ほどの関数の読み込み先を今作ったfilenameにし、計算した平均値をベクトルに保存していくだけである。

mean_a <- numeric(50)
mean_b <- numeric(50)

for(i in 1:50){
    id <- formatC(i,width=2, flag="0")  
    filename <- paste("output/test_", id, ".csv", sep="")
    dat <- read.csv(filename, header=T)

    # ここから中身の処理
    mean_a[i] <- mean(dat[1:10, 3])
    mean_b[i] <- mean(dat[11:20, 3])

}


今回は平均を求めるという簡単な計算だけであったが、中身の処理の部分を変えれば、分散だろうが回帰の結果だろうが何だって計算できるし、ミスも手作業より少ないであろう。

結果の図示や検定以外にも作業の効率化としても使えて、Rは大変便利ですね。

ASDの視覚処理研究は母集団を適切に代表しているのか

Frontiers | Vision Research Literature May Not Represent the Full Intellectual Range of Autism Spectrum Disorder | Frontiers in Human Neuroscience


今までに行われてきたASDの視覚処理研究の研究参加者の属性についてIQの観点から検討した論文。いわゆるボーダーや知的障害圏内のIQに比べて、平均(IQ=90-110)やそれ以上のIQを持つASD者がより研究に参加していることを明らかにしている。想定されるASDと知的障害の併存率(40%)に対し、視覚処理の研究ではそれより少ない率(20%)しか知的障害の併存が認められないことから、サンプリングに偏りがあるとし、視覚研究の結果をASD全体のものとして一般化する危険性について論じている。

今後の研究に求められるものとして、IQ80以下であるASD者からもサンプリングしていくべきだとのことであるが、このサンプリングの偏りの背景にあるデータ収集に関わる難しさにも触れつつも、幼児実験のデザインや言語指示や注意の持続に頼らないテクノロジーの使用などなどを用いてデータを収集していく可能性に触れいている。

佐々木正人『新板アフォーダンス』

新版 アフォーダンス (岩波科学ライブラリー)

新版 アフォーダンス (岩波科学ライブラリー)

ギブソンにも入門する必要があり読んだ。理論の解説のみでなく、ギブソンの人生を紹介しつつ思想の変遷を辿っているので楽しく読めた。学術的なしっかりしたものに入る前の準備運動的なことをしっかりしておかないと挫折してしまいますしね。

坂上裕子ほか『問いからはじめる発達心理学』

読んだ。自分が心理学周辺の知識を知らなすぎて困ってしまうのでコツコツと学んでいる。

有斐閣ストゥディアというシリーズは認知心理学のときにも買ってみて良かったので今回も買ってみた。当該分野の面白さや魅力を伝えるよう意識しているのか堅苦しくない感じが良い。もちろん個別の領域を深めるためにはより専門なものに進んでいく必要があるとはいえ、きっかけづくりとしてはこの程度ボリューム感が丁度よいと感じた。欲を言えば、ブックリストみたいなものが章末についていると良かったかな。

内容としては、わたしが実験系心理学に関心があるので、乳幼児の理解を確認する方法(選考注視法や馴化-脱馴化法など)やそれを用いた有名な実験についてが印象に残っている。

また、発達心理学と聞いて子どもの発達が中心的な内容だろうと(勝手に)想定していたが、生涯発達という観点から老年期まで射程に入っていて勉強になることが多かった。

発達心理学に入門したいという方には初めの一冊にどうぞ。

Spearman(1904)のメモ

"General Intelligence," Objectively Determined and Measured on JSTOR

長い。90ページもあるのはやめてほしい。

全ての知的活動の根底にあるg因子を発見したということで知能の二因子論の始まりとなる論文なわけだが、この時点ではまだg因子という言葉は使っていない。結論部では次のような書き方をしている。

The above and other analogous observed facts indicate that all branches of intellectual activity have in common one fundamental function (or group of functions), whereas the remaining or specific elements of the activity seem in every case to be wholly different from that in all the other. (p.284)