猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

ミルテンバーガー.R(園山繁樹・野呂文行・渡部匡隆・大石幸二/訳)『行動変容法入門」

行動変容法入門

行動変容法入門

  • 作者: レイモンド・G.ミルテンバーガー,園山繁樹,野呂文行,渡部匡隆,大石幸二
  • 出版社/メーカー: 二瓶社
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 単行本
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半月ぐらいずっと読んでいたがようやく読み終えた。

著者によれば大学でテキストとして使われることを想定して書かれた応用行動分析(ABA)の教科書*1ABAの歴史から、基本的な原理、実践的な場面での応用まで一通りのことが、豊富な事例や図版ともに紹介されるのでABAを体系的に学びたい人にはオススメである。

全部で5部の構成になっていて、それぞれの部では以下の内容が紹介されている。

  1. 行動と行動変化の測定
  2. 基本的な行動原理
  3. 新しい行動を形する方法
  4. 望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らす方法
  5. その他の方法

500ページ近くあるのだが、英語圏の教科書らしい教科書で*2、分かりやすくするための工夫が多々あり非常に読みやすい。例えば、用語解説や索引が充実しているのはもちろんのこと、各章には、練習問題、応用課題、さらには間違った応用の例までついており、独学で学ぶ人の理解が間違わないようにする努力が払われている。序の部分には、「試験勉強は、余計な刺激や気の散るようなものがない場所でする。(p.xiii)」なんて勉強方法についてのアドバイスまで載っている至れり尽せり具合だ。翻訳書なのだが、訳が自然で気にならないものも読みやすいポイントに思う。

ABAを実践している人にとっては、「こういうときはどうすれば・・」と思ったときのレファレンスとして、学部生や研究としてABAをやる人はABAで使われる研究デザインへの入門や、関連する文献を読む際の足がかりとして非常に役に立つと思う。


読んでいて思ったことは、ABAの守備範囲はとても広いということだ。この本では、私の関連している発達障害特別支援教育から子育てやビジネス、高齢者の行動など様々な分野の事例を通じて、その原理や原則が紹介されている。原理や原則が非常にシンプルかつ、対象としているものが「行動」と適応範囲が広いからこそ、ABAが様々な分野で活用されるのだろうと思う。

同時に思うこととしては、ABAはあくまで行動の原理と原則の科学に基づいて、行動の予測や制御を行う学問であるので、どのような行動が望ましいか、そしてどのような行動が望ましくないかについて何かを教えてくれるものではないということだ。だから、ABAの手法を用いて実践を行う人は、望ましい行動(ABAの用語を借りれば「標的行動」)を定める際には、このことをよくよく意識しないといけないと思う。このことについてはそのうちTEACCHとの関連で書きたい。

*1:本書では、行動変容法という用語が使われているが特別支援界隈ではABAという用語の方が馴染みがある気がするので、この記事ではそちらを使う。なお、この2つの用語は同義に使われることがあると著者も紹介している(p.5)。

*2:ここでいう教科書らしい教科書とは、心理学でいうところのヒルガードとか、言語学でいうところのフロムキンとか、分厚くて親切な教科書たちのこと。読書猿さんのブログで分野毎の紹介がある。一人で読めて大抵のことは載っている教科書(洋書編):数学からラテン語まで(追記あり) 読書猿Classic: between / beyond readers