読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。ブログ名にあまり意味はありません。

学習障害(LD)と限局性学習症(SLD)はどう違うのか

ブログに来る人の検索ワードを見ると、学習障害(以下LD)と限局性学習症/限局性学習障害(以下SLD)の違いについて知りたい人が多いようで、自分自身も何がどう変わったかについてよく分かっていなかったところがあるので、調べたことを書いてみる。

毎度の注意書きになるのだが、私はアマチュアなので間違っているかもしれない可能性があるということを考慮して読んでいただきたいのと、識者の方は間違っている点があればコメント欄にて教えてくださるととても助かります。

DSMにおける診断の仕方

まず基本的なことなのだが、今回LDがSLDに変わったと言っているのはアメリカ精神医学会(APA)が出しているDSMという精神障害の診断・統計マニュアルにおいてである。2013年に最新版のDSM-5が出版され(それまでは2000年に出版されたDSM-IV-TRが使われていた)その中で診断のカテゴリーが変更されたのである。

さて、このDSMでは、その障害を持つ人が見せる症状や特徴などを列挙して、そのうちの〇〇個以上が当てはまっていればその障害であると診断する「カテゴリー診断」という方法をとっているらしい。
DSM-5の診断基準の特徴とDSM-Ⅳとの違い

DSM-IV-TRにおけるLDの診断

では、以前のDSM-IV-TRではLDの診断基準がどうなっていとかというと以下のとおりである。

DSM-Ⅳ-TR


読字障害(Reading Disorder)
コード番号:315.00

  • 読みの正確さと理解力についての個別施行による標準化検査で測定された読みの到達度が、その人の生活年齢、測定された知能、年齢相応の教育の程度に応じて期待されるものより十分に低い。
  • 基準Aの障害が読字能力を必要とする学業成績や日常の活動を著明に妨害している。
  • 感覚器の欠陥が存在する場合、読みの困難は通常それに伴うものより過剰である。


算数障害(Mathematics Disorder)
コード番号:315.1

  • 個別施行による標準化検査で測定された算数の能力が、その人の生活年齢、測定された知能、年齢に相応の教育の程度に応じて期待されるものよりも十分に低い。
  • 基準Aの障害が算数能力を必要とする学業成績や日常の活動を著明に妨害している。
  • 感覚器の欠陥が存在する場合、算数能力の困難は通常それに伴うものより過剰である。

書字表出障害(Disorder of Written Expression)
コード番号:315.2

  • 個別施行による標準化検査(あるいは書字能力の機能的評価)で測定された書字能力が、その人の生活年齢、測定された知能、年齢相応の教育の程度に応じて期待されるものよりも十分に低い。
  • 基準Aの障害が文章を書くことを必要とする学業成績や日常の活動(例:文法的に正しい文や構成された短い記事を書くこと)を著明に妨害している。
  • 感覚器の欠陥が存在する場合、書字能力の困難が通常それに伴うものより過剰である。


特定不能の学習障害(Learning Disorder Not Otherwise Specified)
コード番号:315.9

  • このカテゴリーは、どの特定の学習障害の基準も満たさない学習の障害のためのものである。このカテゴリーには、3つの領域(読字、算数、書字表出)のすべてにおける問題があって、個々の技能を測定する検査での成績は、その人の生活年齢、測定された知能、年齢相応の教育の程度に応じて期待されるものより十分に低いわけではないが、一緒になって、学業成績を著明に妨害しているものを含めてもよい。


学習障害(こころの病気のはなし/専門編)

DSMIV-TRでは、LDに4つの下位分類(subtypes)を設けており、いずれかの分類の診断基準に当てはまると、その下位分類の診断がなされる。ここで、注意したいのはLDそのものの診断基準というものはない点である。

DSM-5におけるSLDの診断

今度は、DSM-5の診断基準を見てみる。

診断基準 (DSM-5 「限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder)」より)


A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる:

  1. 不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
  2. 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
  3. 綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
  4. 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
  5. 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
  6. 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)


B.欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床消化で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。


C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に思い学業的負荷)。


D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または精神疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。


学習障害診断検査 | イアトリズム事典 知っておきたい 『病院の検査』

DSM-5では、DSM-IV-TRであった下位分類がなくなり、SLDという一つの診断カテゴリーになっている。それだと、学習のどの分野に苦手があるか分からなくなりそうなものだが、SLD with impairment in readingといったように Specifierというものをあとにつけることにより、詳細な症状を説明できるようにしている。

LDがSLDに変わって何が変わるか

さて、DSMのIVと5を比べてみて診断のカテゴリーと診断基準が変わったことは分かるのだが、この変化はどんな意味を持つだろうか。

Tannock(2014)によれば、以下の3つの影響が指摘されている。

  1. 下位分類による診断から包括的なカテゴリーの診断にシフトするため、臨床家や研究者にとっては包括的な学業スキルを評価することが求められ、下位分類を決定するための困難さは減るであろうこと。
  2. IQ-アチーブメント乖離モデルを止めたことにより、診断のために知能検査は求められなくなること。
  3. 特に基準AとBに当てはまるかどうかを知るため、より広い範囲でデータが必要になり、臨床家と教育者、保護者などの連携がより必要になってくること。

http://dyslexiahelp.umich.edu/sites/default/files/IDA_DSM-5%20Changes.pdf



これらは、診断をする際に出てくる影響であり、まぁ診断のカテゴリーと基準が変わればそれに応じて診断の実践上の慣習には影響が出てくるであろうことは当たり前といえば当たり前の話である。

では、実際に支援をする際に影響は出てくるのであろうか、と考えてみると、あまり変わらないような気もする。というのも学習の支援を行う際に、「読字障害のLDです。」や「SLD with impairment in readingです。」と診断があったところで、その診断から支援が導き出されるなんてことは通常ないわけで、「読みの苦手さ」の中でもどういった部分はできてどういった部分がより苦手なのか、詳細に評価を行いながら支援の方略を考え、支援を行いながら修正していくのが、通例だと思うからだ。

雑なまとめ方だが、診断名が変わったからといって支援の実践がそんな大幅に変わる訳ではない、ということだと思う。

なぜ診断のカテゴリーが変わったのか

ここからは、そもそもなんで包括的な診断カテゴリーに変わったかという話で、発達障害界隈の支援を実践する人にとっては知っていても知らなくてもあまり関係がない話なので興味のある人のみどうぞ。ネット上に落っこちていたTannok(2013)のスライドを参照しています。
http://portal.idc.ac.il/he/main/research/documents/4_tannock_herzliya_dsm5.pdf


まず、下位分類を設定するためには、

  • 下位分類それぞれが相互に排他的で、
  • 下位分類全てでLDの範囲を十分にカバーしており、
  • 発達上の変化を捉えることができる

根拠が必要であるらしい。このことを前提としたうえでもろもろの研究成果と照らしあわせてみると不都合が生じてきたとのことである。

もろもろの研究成果とは例えば、

  • 遺伝的・家庭環境的に重なる双子が、読字障害、算数障害など違った症状を見せることから、それぞれの下位分類には共通の遺伝的基盤があることが考えられたこと
  • 低体重の未熟児や、妊娠中にニコチンにさらされるなどの環境的な要因が、全ての領域でのLDのリスクを高めること
  • 就学前のコミュニケーション障害がDSM-IVの3つの領域の全ての障害の共通の予兆となる例があること
  • 文化や言語が違っていても、複数の領域の共存が高い確率で見られること
  • 双子の数学LDと読字LDの認知プロフィールが微妙にしか違わないことから、共通の遺伝的要因が処理速度を遅くしていることにつながっていること
  • 縦断的な研究によればカリキュラムの認知的な負荷が高まるにつれて、(特定の領域でなく)さまざまな領域での困難さが積み重なってくること

などである。

要するに、「様々な領域での学習の困難さには共通的な基盤があり、それが様々なあり方で表面に現れてくる」といった捉え方の方が、学習障害の本態を掴んでおり、また臨床上も都合が良いということで、診断カテゴリーに変更がなされたということである。