猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

梅永雄二編著『自閉症の人のライフサポート TEACCHプログラムに学ぶ』

自閉症の人のライフサポート―TEACCHプログラムに学ぶ

自閉症の人のライフサポート―TEACCHプログラムに学ぶ

TEACCHプログラムの支援の考え方をベースに、自閉症の人の生涯をどのようにサポートできるかを紹介している本。

全8章の構成で、1章でTEACCHプログラムの基本的な考えを紹介した後、2・3章では医療の観点から自閉症の特性を解説し、続く3〜8章では、家庭生活、幼児期、学童期、就労先、福祉サービスとの関わりなど各ライフステージでどのような支援が自閉症の人の社会参加を支えるか紹介している。

まえがきには想定する読者が「保育士、先生、施設指導員、保護者」と書かれているが、自閉症者のライフステージでともに過ごす時間が多いのは保護者なため、保護者に向けて書かれている章が多い。

生涯をサポートするという点では、自閉症の子を持つ保護者が読むと最も得るものが多いと思うが、ライフステージの一部でしか関わることのない保育士、先生、施設の指導員も自閉症の人が自分が関わる時期の前や後にどのような生活が待っていてどのような支援が必要かの見通しを持つという点では大変参考になる。

以下、読んでいて考えたことを何点か。

「適応力」という言葉

1章で紹介されているTEACCHプログラム7大原則の一番最初に「自閉症の人の適応力を向上させる。」とある。わたしはこの「力」という言葉があまり好きでない。というのも「力」というと、人の内面にあるものを想像させるからだ。ある個人が環境と適応しているかどうかは、個人と環境の相互作用の結果である。なのに、適応力という言葉を使うととたんに適応(不適応)の原因が個人の側のみにあるかのように誤解をさせるからあまり使うべきではないと考えている。(同様のことは「コミュニケーション力」にも言える。)

だからこの場合シンプルに「自閉症の人の適応を向上させる。」のほうが適当なんじゃないか、とか考えつつ英語だとなんと書かれているか調べてみると

Improved adaptation: through the two strategies of improving skills by means of education and of modifying the environment to accommodate deficits

TEACCH - NAS

とあるので、やはり「適応力」という言葉は不適なように思う。

ライフサポートをつなぐものは?

人生の各段階において必要とされる支援の形は違っており、この本でもそれぞれの段階での専門家がそれぞれの段階で必要とされる支援を紹介している。各段階で求められる専門性は異なっているため支援から支援をつなぐ仕組みというのは必須のものに思う。この本が参考にしているTEACCHプログラムだと、TEACCHの各地域センターがその役割を担い生涯に渡る一貫した支援が行われるような仕組みを整えているのだろう。

さて、日本の場合はそうした一貫した枠組みがあるのだろうかと考えてみると「個別の支援計画」というものがその役割に近いように思う。文科省のページには以下のようにある。

「個別の支援計画」とは、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係機関が連携して、障害のある子ども一人一人のニーズに対応した支援を効果的に実施するための計画です。その内容としては、障害のある子どものニーズ、支援の目標や内容、支援を行う者や機関の役割分担、支援の内容や効果の評価方法などが考えられます。

第3章 地域における一貫した相談・支援のための連携方策:文部科学省


で、教育委員会なり学校が主となって作成するとこれが「個別の教育支援計画」となり、その中に各学期での指導と評価を記載する「個別の指導計画」が含まれる訳である。

ただ、いくつかの自治体の「個別の支援計画」を見ていると、おこなってきた指導や支援の記録という側面は強いように思うのだが、指導や支援を決めるための枠組みとしては弱い印象がある。もう少し、各段階での指導の目標や支援を決める共通の視点というのがあると良いのではないかと思う。

例えば、社会適応のためのスキルの達成リストのようなもの(TTAPのインフォーマルアセスメントみたいな感じのもの)。達成したらリストが埋まっていき、それをどんどん埋めていくことで社会参加に近づくようにする、とか。その場その場で目標や支援が変わっていくのでなく、一貫した方向性を持って計画的に必要な支援をおこなっていける工夫が必要に思う。

支援計画の様式が支援の実際に及ぼす影響とか、支援計画の活用事例に関する研究があれば調べてみたいと思った。