猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

ベイカー『写真で教えるソーシャル・スキル・アルバム』

写真で教えるソーシャル・スキル・アルバム

写真で教えるソーシャル・スキル・アルバム

ASDの人がソーシャル・スキルを学ぶにあたり、ソーシャル・スキル・アルバムというものの活用を提案している本。ソーシャル・スキル・アルバムとは簡潔に言えば、特定の場面における適切な振る舞い方と不適切な振る舞い方を写真で例示することで、ASDの人が社交情報を理解することを助け、適切なソーシャル・スキルを身に付けることを促す方法である。(なお、原著のタイトルはThe Social Skills Picture Bookでアルバムという言い方はしていない。)

ソーシャル・スキルを学ぶにあたり写真を用いるのは、ASDの人は視覚的な情報処理が得意だからである。著者は写真を用いることの利点として、抽象的なことばをより具体的に表すこと、聴覚情報と違って安定している(聴き逃しなどがない)こと、注意をひきつけやすいこと、などを挙げている(p.14)

視覚情報を活用してASDの人が社交情報を理解するのを助けるという点では、キャロル・グレイによるソーシャル・ストーリーズやコミック会話などとも近い。ソーシャル・ストーリーズより作成の点で手間はかかるが、知的機能が低く文字情報を扱うスキルが十分に発達していない場合などは有効な手段として活用の場面があるだろう。(現にわたしがこの本を手にとったのもソーシャル・ストーリーズを活用するのが難しい中度〜重度のASDの人にソーシャル・スキルを効果的に教えたいと思ったからである。)

一般にソーシャル・スキルの指導の流れは、教示、モデリング、フィードバック付きのロールプレイ、般化のための学習である。これらの手順の内で教示やモデリングの部分を、ソーシャル・スキル・アルバムを使用することで置き換えることができる。ことばによる指導や指導者によるモデリングに頼るかわりに、ASDの人が理解しやすい視覚情報を使ってスキルの理解を図るのである。従ってこのアルバムを見るだけではスキルが身につかない(ロールプレイや般化のための学習は必要)が、スキルを最初に学ぶためには効果的な道具であると著者は述べている(p.18)。

2部構成で、1部ではASDの人の特性とソーシャル・スキルの指導法、ソーシャル・スキル・アルバムについての解説が簡単になされる。2部は実践編で、コミュニケーションについてのスキル、遊びについてのスキル、感情についてのスキルが実際の写真や吹き出しとともに収録されている。

収録されている場面やスキルは限定的であるため、実際に活用するには対象とするASDの人のニーズに合わせて、オリジナルのアルバムを作っていく必要があると思うが、作り方の手順や作る際に考えることについても解説があるため、活用はしやすいと思う。

内容としてはとても良い本なのだが、本の形が特殊でやたら横長なため大変読みづらい。そした本棚への収まりが良くないのが玉にキズだと思った。