猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

長崎勤ほか編著『個別教育計画のためのスクリプトによるコミュニケーション指導 障害児との豊かなかかわりづくりをめざして』

個別教育計画のためのスクリプトによるコミュニケーション指導―障害児との豊かなかかわりづくりをめざして

個別教育計画のためのスクリプトによるコミュニケーション指導―障害児との豊かなかかわりづくりをめざして

スクリプトを用いたコミュニケーション指導法の解説。3部構成で、1部は背景となる理論や基本的な考え方など、2部は実際のスクリプトの紹介と指導実践例、3部はスクリプトを用いた指導について理論的考察を深めたものになっている。

スクリプトとは、生活の中で行われるいくつかのルーティンが結合して内化されたものと説明されている(p.9)。具体的な例として、子どもが食事をする行為は、「食器をそろえる、お手伝いをする、食事の前に手を洗う、いただきますをいう、実際に食事を食べる、あとかたづけを手伝うなどの行為の連続(p.9)」であり、それらを「ストーリー化」された一連の行為として(=つまりスクリプトとして)子どもは獲得していくと考えられている。

そして、子どもは獲得するスクリプトを参照しながら、そのスクリプトの要素に対応した言語の意味・伝達意図の理解と表出を獲得していくと仮定されている。したがって、スクリプトによって子どもが言語を獲得する文脈を分かりやすく提示することで、コミュニケーションの発達が促されるというのが著者らの主張である。

インリアル・アプローチなどと同様、語用論的コミュニケーション観を背景としているため、コミュニケーション行動は文脈の中で解釈される。インリアルの場合は、比較的短い行為の連鎖であるフォーマットを利用したコミュニケーションの指導であったが、スクリプトの指導はそれよりも長い行為の連鎖を想定している。いずれのアプローチにせよコミュニケーション行動が引き起こされる文脈を適切に用意することにより、コミュニケーションの獲得を目指している。

少し古い本だが、コミュニケーションの指導をするにあたり、コミュニケーションそのものについて考える良いきっかけになる本だと思う。