猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

旭出学園教育研究所編『S-M社会生活能力検査の活用と事例-社会適応性の支援に活かすアセスメント』

S-M社会生活能力検査の活用と事例 ‐社会適応性の支援に活かすアセスメント‐

S-M社会生活能力検査の活用と事例 ‐社会適応性の支援に活かすアセスメント‐

まず印象に残ったことは、この検査から分かることはあくまで社会生活能力のおおまかな指標なのだということ。これ単体で何か有効な結論が出せるかというとなかなか難しく、実際の支援のためには他のアセスメントや普段の行動の聞き取り、行動観察など様々な情報を総合的に解釈して行なう必要がある。本書に収められている20の事例もそのように解釈を行っていたと思う。

特に、検査室で行なう心理検査での値と比べて、社会生活能力指数がそれより高かったり低かったりする事例もあり、アセスメントに厚みを持たせるために、WISCやビネーなんかとバッテリーを組ませると良いなぁと思った。

1部の検査概要部分にも書いてあるが介入効果の検証みたいな目的だと、成長に伴う自然な変動なのか、介入の効果なのか分けて考えることが難しいだろうが、比較的長いスパンで教育プログラムの全般的な効果の測定といったような文脈だと使いやすかいもしれない。実施にかかるコストも小さいし。

本書の直接的な内容ではないのだが、ASA検査も使い勝手が良さそうだと思った。自分は扱ったことないけど。とくに、発達障害や知的な遅れが少ない児童生徒なんかは支援につながりやすいのでは、と思う。

以下、自分のためのメモ。

S-M社会生活能力検査は社会生活のおおよその発達水準や個人内差を捉えるための初期アセスメントとして位置づけられるものであり、(...) p.5

AAIDDによる適応スキルの3領域に分けた整理 p.9

AAIDD(2010)は、この考え方[問題行動が、与えられた環境条件に対して実は「適応的」に機能しているということ]が高い知的機能の人には適用されないことが多いとしており、(...) p.11

[社会生活年令は]各領域の項目数がそれほど多くないため、非常に大ざっぱな尺度であり、おおよその発達レベルを見るにとどめるべきである。p.15

このような、構造化された場面で示すことのできる能力を、日常場面で応用する力の弱い事例に対し、多岐にわたるライフスキルの指導を効果的に行なうには、ある程度枠組みがはっきりしたシンプルな環境の中でスキルの基本を身につけることが求められる。それに加えて特別支援学校のように、日常場面で応用する場面を個に配慮しつつ設定できる環境の中で教育を受ける機会が必要だったのではないだろうか。本事例のように知的レベルと社会生活能力がかけ離れている場合、そのバランスを考慮して進路を選ぶためには、社会生活能力は軽視されてはならない。p.104