猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

モーメントについて

モーメントについての学習メモ。

モーメント(積率)という概念がある。これは、確率分布の性質のうちのいくつかを数値で表したものである。平均値や分散というのもモーメントの一種である。

離散値をとる確率変数 xについて、その確率分布を P(x)としたときに、x^nの期待値をxの確率分布の n次のモーメントという。

    \acute{m}_n = E(x^n) = \sum_x x^n P(x)

これは、原点まわりのモーメントと呼ばれたりする。 n=1である1次のモーメントはそのまま定義通りに平均値である。

一般にモーメントが用いられるのは平均値のまわりらしく、確率変数 x \muの差のべき指数で求められるモーメントである。

    m_n = E \big( (x - \mu)^n \big) = \sum_x (x - \mu)^n P (x)

こういったものを平均値のまわりのn次のモーメントと呼ぶ。原点まわりと平均値まわりをここでは  \prime の有無で区別する。平均値まわりの1次のモーメントを求めると以下のようになる。(ここで、 \sum_x P(x) は確率の定義から1である。※サイコロのすべての目の確率は足すと1。)

    m_1 = \sum_x (x -\mu)P(x) = \sum_x xP(x) -\mu \sum_x P(x) = \mu - \mu = 0

平均値まわりの2次のモーメント(つまりは分散)を計算するには、定義式のものより原点まわりのモーメントを用いて次のように計算すると簡単らしい。

    m_2 = \acute{m}_2  - \mu^2 = E(x^2) - \mu^2

これは何かというと、分散の簡便な計算式とされる「2乗の平均 - 平均の2乗」にほかならない。

さて、モーメントを求める際には、モーメントを生み出すモーメント母関数というものを用いると便利であるらしい。モーメント母関数とは \xi(グザイとかクシーと読む)についての次のような関数である。

    f(\xi) = E (e^{\xi x})

指数関数の級数展開の公式というものがあり、

    \displaystyle e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \dots

これを用いると、モーメント母関数の式は、

    \displaystyle f(\xi) = E \big( 1 + \xi x + \frac{\xi^2 x^2}{2!} + \frac{\xi^3 x^3}{3!} + \dots \big)

このようになる。さらに式を変形すると、

    \displaystyle f(\xi) =   1 + \xi E(x) + \frac{\xi^2}{2!} E(x^2)+ \frac{\xi^3}{3!} E(x^3) + \dots

このようになり、これを最初に紹介した原点まわりのモーメントで置き換えると、

    \displaystyle f(\xi) =   1 + \xi \acute{m}_1 + \frac{\xi^2}{2!} \acute{m}_2+ \frac{\xi^3}{3!} \acute{m}_3 + \dots

が得られる。展開式の係数に次々と高次のモーメントが現れてくる。この母関数を用いると、面倒な計算を避けてお目当てのモーメントを計算することができるというのだ。

n次の原点まわりのモーメント \acute{m}_nを求めたいのであれば、 f(\xi)\xiについてn微分をし、 \xi = 0とすれば求められる。先に求めた展開式を見れば分かるように、 \xi = 0とすることで、nよりも右の項はすべて0になるので目当てとするモーメントだけが取り出せるわけである。

二項分布を例にして考えてみよう。二項分布の確率関数は次の式で表される。

    P(x) = {}_n C _x  p^x q^{n-x}

まずは、これをモーメント母関数に埋め込み、多少の変形を行う。


    \begin{equation*}
\begin{split}
f(\xi)  &=  \sum_{x=0} ^n e^{\xi x} P(x) \\
&= \sum_{x=0} ^n e^{\xi x} {}_n C _x  p^x q^{n-x}\\
&= \sum_{x=0} ^n {}_n C _x (pe^\xi)^x q^{n-x}
\end{split}
\end{equation*}


最右辺の式は、二項定理を用いると次のように書くことができる。

    f(\xi) = (q + pe^\xi)^n

この式を用いて、 \acute{m}_1を求める。1次のモーメントなので、1回微分を行い、 \xi = 0とおく。((p+q)は1、および、eの0乗は1なことから、下から2番目の式の()内は1である)


   \begin{equation*}
\begin{split}
\acute{m}_1 &= \frac{df(\xi)}{d\xi}\\
&= npe^\xi(q + pe^\xi)^{n-1}  \\
f^{\prime}(0) &= np
\end{split}
\end{equation*}


二項分布の平均値である、 npが無事に算出された。続いて、 \acute{m}_2を求めてみよう。まず、2階微分を行う。


 \begin{equation*}
\begin{split}
\acute{m}_2 &= \frac{d^2f(\xi)}{d\xi^2}\\
&= npe^\xi \big((n-1)(q + pe^\xi)^{n-2} pe^\xi\big) +  npe^\xi (q + pe^\xi)^{n-1}\\
&= npe^\xi \big( (n-1)(q + pe^\xi)^{n-2} pe^\xi + (q + pe^\xi)^{n-1} \big)\\
\end{split}
\end{equation*}


そして、 \xi = 0とすると、


 \begin{equation*}
\begin{split}
f^{\prime\prime}(0) &= np \big( (n-1) p + 1 \big)\\
&= np (np + 1 - p ) \\
&= np (np + q ) \\
&= n^2p^2 + npq\\
\end{split}
\end{equation*}


 \acute{m}_2 = n^2p^2 + npqが得られる。あとは、最初の方に述べたように、原点まわりのモーメントから平均の2乗、すなわち n^2p^2を引くことで、

    m_2 = npq

が得られる。二項分布の分散も無事に算出された。

このように、モーメント母関数を用いれば様々な確率分布のモーメントを求めることができる。

【参考】
『キーポイント確率・統計』(岩波書店