猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

小川浩『重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門』

重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門

重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門

ジョブコーチ入門という書名の通りで、ジョブコーチというのがどういう仕事をする人でどういった専門性が必要とされるかについて、初学者にとってもわかりやすく書いてある。

自分は仕事の都合で学校教育の現場に関わることが多く就労支援や就労移行に直接的には関わる機会は少ないので、自分の実務に直接的に役に立つ内容が書いてあった訳ではないのだけれど、別の視点で役に立つことがたくさん書いてあった。それは、外から入っていて現場の状況を把握しながら支援の環境を構築していくジョブコーチの仕事というのが、学校における外部専門家の立場に近しいものを感じていて、外から入った人がどう内部の関係性を変えていくかという観点でとても参考になる点が多かった。

たとえば、「ジョブコーチは企業の支援者でもある(p.38)」との項では、福祉の世界の価値観と一般企業の価値観が時に違うことを指摘しながら、ジョブコーチは双方の価値観に成立することが書かれている。これを、特別支援教育の外部専門家の立場に置き換えると、ときに学校の先生の価値観と支援の価値観とは対立することがあるのだけれど、そうしたときに先生たちの持っている価値観なり観点を考慮していないで特別支援教育の理屈や価値観だけを振りかざしているようだと専門家としては必要とされなくなってしまうだろう(必要以上に現場の先生をディスったり、そもそものリソースの違いを認識していない特別支援関係者にはたまに出会う)

現場の人同士の関係性を把握するという観点で、「従業員情報をつかむ(p.61)」という項も大変参考になった。そこでは、ナチュラルサポートの形成のために従業員マップを作ることを提案している。特別支援教育でも、校内のキーパーソンを把握して「誰に」「何を」働きかけていくかが外部から関わる際に非常に重要である。月に数回や年に数回しかいかないような現場においては、自分ができることは限られているので、いかに現場の力学関係を把握するかは重要だろう。

あとは、「記録のとる際のコストについての考え方(p.81)」であったり、「レディネスモデルと援助付き雇用モデルの対比(p.18)」など、就労支援の現場において役に立つと同時に、これらは考え方は他の現場にも応用の可能性的あるのではないかと思い読んでいた。

薄くてかつ図が多くすぐ読める。就労支援に携わる人はもとより、対人援助に関わる人が読んで得るものも多いと思う。