猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

自殺リスクの評価について

松本俊彦(2015)『もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応』中外医学社

自殺予防の専門家が自殺リスクの評価と対応について書いた本。対象としている読者は精神科レジデント, 精神科コメディカルなどであるが, それ以外の心理的援助に関わる人間が読んでも得るものは多いと思う。海外で行われている研究や著者らのグループが実施している研究を紹介しながら実証的な研究にもとづく知見がまとめられている。

自殺の対人関係理論

1章では「人はなぜ自殺をするのか」という問いに対して, Joinerらによる自殺の対人関係理論が紹介される。この理論では, 人が自殺行動を起こすことは「自殺潜在能力」「所属感のの減弱」「負担感の知覚」の3つの要因から説明される。

自殺潜在能力とは, 身体的疼痛への抵抗感の低さや慣れを反映するものと説明される。例えば, リストカットなどを繰り返していたり, アルコールや薬物乱用のように自身の健康を害する行動があると, 自殺潜在能力が高まるとされている。

所属感の減弱とは, 現実の生活での人とのつながりのなさのほか , 居場所のなさや自分を必要としている人がいないと感じることなどの主観的なものも含むようである。

負担感の知覚とは, 自分が生きていることが周囲の迷惑になっているという認識のことである。例えば, 介護を受けている高齢者が, 家族の足でまといになっているという感覚の中で負担感が高まることが紹介されている。

所属感の減弱と負担感の知覚の2つが重なることで, 自殺願望が生じるとされており, そこに自殺潜在能力が高まることが重なり致死的もしくは重篤な自殺企図が起きると説明される。

自殺念慮・自殺企図のアセスメント

2章では, 精神科医のSheaによる自殺のリスクアセスメントの技法であるCASEアプローチが紹介され, 続く3章では, 自殺企図の評価の方法が紹介されている。

いずれの章で紹介される方法も, 抽象的な議論に終始することなく具体的に何の情報を集めるべきか, どう聞くべきかが議論されているので, 多くの自殺既遂者・未遂者と関わってきた著者の経験が生かされている。