猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

ボンディ. A , フロスト. L (園山繁樹・竹内康二/訳)『自閉症児と絵カードでコミュニケーション PECSとAAC』

自閉症児と絵カードでコミュニケーション―PECSとAAC

自閉症児と絵カードでコミュニケーション―PECSとAAC

  • 作者: アンディボンディ,ロリフロスト,Andy Bondy,Lori Frost,園山繁樹,竹内康二
  • 出版社/メーカー: 二瓶社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本
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自閉症スペクトラム障害に代表されるような、コミュニケーションのための話し言葉を持たない人を理解し支援するために書かれた本である。前半部分では、言葉を用いない人のコミュニケーションの特徴や、問題行動などとの関連が具体例を挙げながら説明される。そして、後半部分では、それらの理解を基に、絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS:the Picture Exchange Communication System。「ペクス」と呼ばれる。)の導入法を中心に、代替・拡大コミュニケーション(AAC)を用いて自閉症スペクトラム障害の人とのコミュニケーションを支援していく手法が紹介されている。

本書は一貫して、応用行動分析(ABA)の視点からコミュニケーションを捉えており、PECSのトレーニングの理論的な基板もABAの学習理論である。従って、ごくごく簡単なもので良いのでABAについての入門書を1冊読んだ上で本書に臨むほうが理解がしやすいと思う。(もちろん本書だけでも理解できないわけではないが…)

読んでいてPECSが優れていると思った点は、それを活用するための前提条件が多くない点だ。本書に「PECSを始めるための前提条件は何か?」という節があるのだが(p.84)、その中で唯一挙げられている前提条件が「好きなものに向かって手をのばすことができるかどうか」だけである。微細運動のスキル、絵の意味の理解、標準化された発達検査の得点、アイコンタクト、静かな着席、指示に従うこと、絵と具体物のマッチング、これらのことはPECSを始めるにあたって必要がないと著者は言う。PECSが重視しているのは、自発的なコミュニケーションである。PECSはABAの原理に従っているので、当たり前といえば当たり前だが行動を変容するために強化子を必要とする。その強化子を自発的に入手するための行動が見られるかどうかが、自発的なコミュニケーション行動を形成できるかにおいて重要なのである。

前提条件が少ないということは、様々な場面で活用しやすいということである。例えば、ある問題行動に対して機能的に等価なコミュニケーションに置き換えようと思ったとき(ABAでいうところの機能的コミュニケーション訓練)、その代替行動を起こすために、あれも必要とこれも必要と多くの前提条件が必要になると、活用はそれだけしづらいものとなるが、PECSには様々な場面で活用できる可能性があるように思う。

内山先生の本によると、PECSの開発者の一人であるアンディ・ボンディはABAが専門で、TEACCHで構造化された指導を学んだ後にPECSを始めたらしい(内山, 2006, p.175)。自閉症の人にとって優位なモダリティの利用、ABAの原理に則ったスキルの習得というPECSの特徴は、まさに「TEACCH経由でのABA」っぽいな、と思ったりもする。

この本ではPECSが代替するコミュニケーションの機能として、「要求」と「コメント」の習得について書かれていたが、昔学んだ言語学でコミュニケーションの機能ってもっとたくさんあったような気もするので(とてもあいまいな記憶だが)、PECSではコミュニケーションのその他の機能をどう捉えているのかが気になった。原著が出たのは2002年で、だいぶ経っているので、PECSがその後どう発展していってるかは時間があれば調べてみたい。

【参考文献】
内山登紀夫(2006)『本当のTEACCH 自分が自分であるために』学研