Scholer, A. L. 「自閉症の思考:その学習や発達の特徴」
- 作者: Kathleen Ann Quill,安達潤,笹野京子,内田彰夫
- 出版社/メーカー: 松柏社
- 発売日: 1999/09
- メディア: 単行本
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書誌情報: Schuler, A. L. (1999). 「自閉症の思考:その学習や発達の特徴」Quill, K. A.(編)『社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育』(安達潤・内田彰夫・笹野京子ほか訳)(13頁-49頁). 松柏社.[原著:Quill,K.A. (Ed.) (1995). Teaching Children with Autism. Albany, NY: Delmar Publishers.]
Quillの『社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育』を読んでいるのだが、自分の専門分野的にも丁寧に読まなければならない本に思うので、これについては章毎に記事にしようかと思う(全部はやらないけど)。
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今回は1章のSchulerによる「自閉症の思考:その学習や発達の特徴」。
この章の主張を簡単にまとめると、自閉症の思考の特徴は「物」についての思考と「人」についての思考のアンバランスさであり、それが、自閉症者の社会的やりとり、情緒、コミュニケーションおよび言語の学習の特異性を特徴づけている、ということである。
「物」についての思考と「人」についての思考が違っているというのはKannerの初期の観察の時点で指摘されていた。しかし、生後初期の社会性の発達やコミュニケーションの発達は20世紀の中頃にはよく知られていなかったため、Kannerの初期の観察が理論的な枠組みを持つことができずに、多くの意見の対立が産まれてきたのである。
「物」についての思考と「人」についての思考の違いは、次のような認知的な情報処理の様式によって特徴づけられている。
- 視覚的・空間的な刺激なのか聴覚的・言語的な刺激なのか
- 刺激の入力が持続性(すぐに消えない)のものか、一過性のものか
- 刺激の部分に注目するのか、刺激の要素を統合して解釈するのか
自閉症者の場合は、これらの前者の側の認知が得意である一方、後者の側の認知については不得意であることが知能テストや学習の実験から分かっている。そしてこのアンバランスさが社会性の発達を妨げているのである。
例えば、自閉症者の多くはコミュニケーションの試みが人に向きづらいことを考えてみる。人とのやりとりは、一過性で消えやすい聴覚的言語的な刺激の入出力を要し、それを相手の表情や場の状況など様々な要素を統合しながら行なうものである。先に見た認知特性的を考慮すると自閉症者が人に向けたコミュニケーションに困難をかかえるのは当たり前の話である。自閉症者のコミュニケーションは、視覚的空間的で持続性のある「物」に向けられ、主に物理的環境に働きかけることによって動機づけられている。
発達のアンバランスのため社会的なやりとりが学びづらいことに加えて、このアンバランスは情緒的なやりとりに否定的な影響をあたえるために社会的な孤立を生みやすく、適切な文脈が設定されないかぎり社会的なやりとりが未学習・未発達なまま成長していくことになる。
また、コミュニケーションの理解が言語および非言語的に阻害されているため、環境の変化への準備が何もなされないままに日々を過ごすことになるので、結果として予測可能な決まりきった行動や物理的な秩序を保つことに頼ることになるのである。
このほかにも遊びの発達、エコラリア、言語学習、共同注意や心の理論など自閉症の社会性の発達について、「物」への思考と「人」への思考を軸に説明がなされている。
最後には、自閉症の認知と学習スタイルの特異性を踏まえた上で教育の働きかけを工夫していくべきであるという提言をして章を締めくくっている。
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関連する様々な研究結果がまとまっているだけでなく、Kannerの指摘した思考の違いを切り口に、研究結果全体を俯瞰する視点を提示していて大変勉強になる章だった。