猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

Dalrymple, N. J. 「環境的援助で柔軟性と自立性を発達させる」

社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育

社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育

書誌情報: Dalrymple, N. J. (1999). 「環境的援助で柔軟性と自立性を発達させる」Quill, K. A.(編)『社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育』(安達潤・内田彰夫・笹野京子ほか訳)(377頁-411頁). 松柏社.[原著:Quill,K.A. (Ed.) (1995). Teaching Children with Autism. Albany, NY: Delmar Publishers.]

前回に引き続きQuillの本から。今回はDalrympleによる10章。

この章は、自閉症児の柔軟性と自立性を高める環境的援助を、その効果的な使用法とともに記述している。ここで言う環境的援助とは、相手との相互作用といったものでなく、スケジュールや手順表、物の位置など自閉症児を取り巻く具体的な環境的側面のことを指している。それらについて、どんな種類の刺激がどこにどのような手順で提示されるべきかが検討されている。

環境的援助を用いる根拠としては、中枢性統合の弱さ(Frith,1989)や一般化の能力の弱さ(Sokes and Bear,1977)、注意の切り替えの弱さ(Courchesne, 1990)などが挙げられている。したがって、それらの弱さを補い適応を高めることが環境的援助の役割になるのである。

環境的援助の目的として、章のタイトルにもなっているが柔軟性と自立性の発達が挙げられている。刺激の過剰選択性を持つ自閉症児は環境の変化に対して敏感であり、ルーチンに依存するようになる。変化に応じることを学習するために、はっきりと分かりやすく周囲の情報を伝える環境的な援助が必要であり、それが自閉症児の柔軟性を高めることにつながる。また、行動の手がかりとして大人のプロンプトに依存している場合には、適切な環境的手がかりが提示されることにより自立的な行動が増えることが期待される。

環境的援助の具体的な種類として、時間的援助、手続き的援助、空間的援助、自己主張援助が紹介されている。それぞれの援助は、時間の流れや枠組みの理解、活動の各手順間の関係や人と物との関係の整理、周囲の環境整理、自分から周りに働きかけ、のために使われる。

環境的援助を行なう際に検討しなければならないこととして、個別化、社会的な適切さ、首尾一貫性、年齢相応か、他の状況への応用性などが挙げられている。また、環境的援助を実施するべき場面やいつ使うべきかも検討がなされている。


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環境的援助の側面に注目して記述・整理するというのは、ありそうであまりないので参考になるものだった。特に、p.380の表1「環境的援助」とp.412-413の資料10.1「環境的援助を使うためのガイドライン」は環境的側面について記述や整理を試みる際の足がかりになるものだと思った。