猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

単一事例研究法の一般化について

※自分の中でも全然整理されていないのですが、そのままアップします。

単一事例による研究の結果をどの程度一般化した結果として解釈して良いかについて考えている。例えば、ある指導法Aの効果が知りたくて、タロウさんを対象にデータをとるとする。ここで、得られた指導法Aの効果は、別の対象者のハナコさんに対しても同様に効果的だと言ってよいのか。もっと一般化した話として、「指導法Aは〇〇な効果がある」と言ってしまってよいのか。とか、そんな話である。

野呂(2009:p.101-102)には、リプリケーションについての説明に続いて、次のように書かれている。

単一事例研究法を用いて、特定の対象者において介入条件の効果が実証できたとしても、その結果を他の対象者へと一般化できる保障はない。そのために、このリプリケーションのプロセスが必要となる。このリプリケーションの結果、複数人数の対象者においても同様の結果が得られたとすれば、介入条件(独立変数)と標的行動(従属変数)との間の関数関係の証明はより強固なものになる。

単一事例はあくまで事例の一つであるということで、複数人で同じような結果が得られるまでは一般化された効果として言うことはできないらしい。

複数人で似たような介入の結果を得られた場合は話が単純で良いのだが、複数人で結果が異なる場合には話がややこしくなる。指導法Aがタロウさんには有効だったが、ハナコさんには有効でなかった場合だ。

こうした場合の対応について、野呂(2009:102)には次のように書かれている。

同じ結果が得られない対象者がいた場合にはどうするのか。そのときには、その対象者において効果が示されるような介入条件を継続的に実証していく必要がある。ただし、このことは最初の研究で示された結果を単純に否定するものであるとは限らない。むしろ、最初の研究で得られた知見を拡張する役割を果たすと考えてよい。

同様の結果が得られるまで、介入条件(独立変数)を変えてみて、効果(従属変数)を探るようである。

野呂は次のような仮想データでそのことを説明している。

自傷行動を示すA君とB君に対してある指導法を用いてそれが減少するかに検証した。そこで、Aくんは指導開始後に自傷行動が減少したが、B君は指導を開始しても自傷行動が減少しないという結果が得られた。B君においても自傷行為が減少する環境条件を探った結果、十分な睡眠という条件が整えば、Bくんにも指導法の効果があることが明らかになった。こうして、十分な睡眠が確保された上で指導法を用いることが、自傷行為の減少に効果があるという結論が得られたこととなる。

自傷行為の生起頻度を従属変数yとして、指導法の有無を独立変数x1、十分な睡眠の有無を独立変数x2とすると、2要因それぞれ2水準の実験計画として表現できる。上の例では、1要因による従属変数の説明が上手くいかなかったので、従属変数をより上手く説明するために、要因数を増やすことが行われている。1要因のときには誤差として表されてしまうものを、独立変数の要因数を増やすことで、誤差でないものとして扱おうとしているのである。

ここで、「十分な睡眠が得られており指導法を用いた」が自傷行動が減らなかったC君が出てきたとする。その際には、どう対応するべきだろうか。話の流れからすれば、指導法の効果が得られる環境要因を探ること、つまり独立変数の要因数を増やすこと(例えば、満腹かどうか)で従属変数を説明するのだろう。だが、こうした手続きをとっていくと、研究を重ねれば重ねるほど、独立変数の要因数が増えて、結果の解釈が難しくなっていくのではないかとも思う。

交互作用のことを考えると、「指導法の効果が睡眠条件によって異なる」「指導法の効果が満腹感によって異なる」という1次の交互作用に加えて、「指導法の効果が睡眠条件によって異なる異なり方が満腹感によって異なる」「指導法の効果が満腹感によって異なる異なり方が睡眠条件によって異なる」といったように2次の交互作用のことを考えなければいけなくなる。

要因数が増えたら、より高次の交互作用のことを考えなければならないが、そうなった場合の解釈はとても複雑である。

単一事例研究のメタ分析などが、ここらへんの問題をどう処理しているのかがとても気になった。

【参考】
野呂文行(2009). 単一事例研究法  前川久男・園山繁樹 (編著)障害科学の研究法(pp.89-115) 明石書店