猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

チンパンジーと心の理論と

ASD児者が心の理論に障害を持っているという仮説は、イギリスのバロンコーエンが最初に提唱したものである。少し詳しい人であれば、この心の理論というのは最初は、霊長類研究者であるプレマックとウッドルフがチンパンジーについて検討したものだということも知っているであろう。「チンパンジーは心の理論を持つのか(Does the chimpanzee have a theory of mind?)」という題でThe Behavioral and Brain Sciences に掲載された論文はとても有名である。

Does the chimpanzee have a theory of mind? | Behavioral and Brain Sciences | Cambridge Core

私は論文の名前は知っていたのだが、実際にプレマックとウッドルフがどのようにしてこの命題を検討したかについては知らなかったので抄録と中身を少し読んでみた。

この実験では、サラというチンパンジーに対して、人間の役者が困っているシーンを撮影したビデオテープを見せたようだ。そのシーンは、食べ物を取ることができなくて困っているような単純なものと、(役者が)鍵のかかったケージから抜け出せなかったり、動かないヒーターを前に寒がっているシーンだったりとやや複雑な問題場面のものである。

ビデオテープの最後の部分で映像を止め、その問題を解決できるもの(例えば、ケージを開けるための鍵など)を含む選択肢を写真で提示し正しいものを選ぶことができるかが記録された。最初の試行では、選択肢には全然関係ないものを含めて提示を行い、続く試行ではより微妙な差の選択肢(例えば、そのままの鍵、ねじれた鍵、壊れた鍵)が提示された。

最初の選択肢の系列では、サラは一度も間違うことなく写真を選ぶことができたようである。続く差がより微妙な選択肢の系列でも、サラは12回の選択中1回しか間違わなかったようであり、このことは単純な問題と道具を物理的にマッチングさせているだけでなく、役者の意図や目的を推論して行動していることの根拠とされたようである。

この他にも論文では、サラが好きな飼育員とあまり好きでない飼育員を役者にした場合などより詳細に検討を行っているが、詳しく知りたい方は元論文にあたられると良いだろう。

心の理論というと、サリーとアンなどの誤信念課題で考えるものという程度の理解しかなかったので、チンパンジー相手にどのように測定するのかは大変興味深かった。