猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

シェムとシェマについて

発達心理学について勉強するとシェマという言葉を必ず学ぶ。ところが、最近ピアジェについて勉強し直す中で、ピアジェはシェム(Schéme)という用語とシェマ(Schéma)という用語を厳密に使い分けていることを知った。英米の研究者がピアジェを英訳する際にそれらをごっちゃにしてしまったため、英語圏ピアジェ理解をベースに日本に輸入されたピアジェ理論においてもシェマの一つの訳語が定借してしまったようだ。

次の本は、ピアジェ自身によるピアジェ理論の解説の翻訳なのだが、それをもとに2つの違いについて書いてみる。

ピアジェに学ぶ認知発達の科学

ピアジェに学ぶ認知発達の科学

この2つの違いは、記憶の発達についての説で言及されている。1つは記憶を過去の認識という側面に注目したときのもので、そうした際に用いられるのがシェムである。表象的知能においては「概念」を用いて思考するが、感覚運動的知能段階においても周りの環境を理解しようとする心理的な構造があるはずだとピアジェは考え、これを「(行為の)シェム」と呼んだのである。たとえば、ものをつかむという行為は物の大小や軽重によって物理的には違った行為となるが、心理的には等価な行為として存在すると考えられ、この場合は「把握のシェム」と呼ばれる。(p.19に詳しく解説されている)

他方、記憶の抽象的な性質でなく、特定の具体的な事物や事象を対象とした側面に注目することもできる。その場合に記憶はある種の図式的なイメージとしての性質を帯びることとなり、現実をあくまで表示しようとする試みとなる。これはさきのシェムとは全く違った働きであるため、この図式的な側面を指示する用語としてピアジェは「シェマ」と使い分けた。(p.16に詳しく解説されている)

やや長いがピアジェ自身の言葉も引用してみよう。

記憶は非常に異なった2つの側面をもっている。一面では, 記憶は過去の認識という意味で認識であり, したがって知能の「シェム」を利用している。(...)他面では, 記憶は抽象的な認識ではなくて, 特定の具体的事物や事象を対象としている。このため, 心像とりわけ「記憶的イメージ」(memory images)のような象徴が記憶のはたらきに必要である。ところで, イメージ自身も図式化(schematized)されているが, それはシェムとはまったく異なった意味においてである。というのは, イメージはいかに概略的(schematic)であっても, それ自体はシェム(schemes)ではないからである。イメージの図式性を指示するために「シェマ」(schema, 複数形はschemata)という用語を使おう(...)。シェマは単純化されたイメージ(たとえば, 町の地図)であるのに対し, シェムは行為において繰り返され一般化されうるものをさす(たとえば, 棒やその他の道具で物を「押す」とき, 「押しのシェム」というのは押すという行為に共通するところのものである)。(p.108)

この本は、大変勉強になる。