猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

梅永雄二『自立をかなえる!特別支援教育ライフスキルトレーニング スタートブック』

本書は発達障害の人が抱える生きづらさを、ライフスキルの観点から考え、彼ら/彼女らが(最低限)身につけておくべきスキルや、どのような支援が必要かを検討した本である。

ライフスキルとはもともとWHOが提唱した概念で、「個人が日常生活の欲求や難しい問題に対して、効果的に対処できるように、適応的、前向きに行動するために必要な能力」と定義され、本書では簡単に「日常生活において生じる問題に対処できる能力」とまとめられている(p.49)。WHOが提唱するライフスキルは包括的で、ややもすれば発達障害者にとって不適当な内容も含まれているため、本書ではそのライフスキルの中から「発達障害の人たちが大人になってから幸せになる(p.58)」という観点から、身につけおくべきスキルを検討している。

「大人になってから幸せになる」ためのスキルを考える際に参考にされているのは、TEACCHプログラムのTTAP(TEACCH Transition Assessment Profile)という成人生活への移行のアセスメントで、本書でもそれなりの紙面を割いて(pp.65~79)紹介されている。これは成人生活に必要とされるスキルを「対人行動」や「余暇活動」などいくつかの領域に分けて、それぞれの領域を「直接観察尺度」「家庭尺度」「学校/事業所尺度」と3つの側面から評価するものである。例えば、余暇活動という領域では家庭尺度だと、「ラジオを聞いたりテレビを見て楽しむことができる」などの項目がある一方、学校/事業所尺度だと「お昼休みなどの自由時間を適切に過ごすことができる」といった項目がある。場面ごとに必要とされるスキルが違っているので、それぞれを評価しようという考え方だ。そして、発達障害者の一人ひとりの実態(年齢・能力・興味・地域の環境etc)に応じて、実際の生活を想定しながら、身に付けるべきスキルを取捨選択行っていく例が示されている。

特別支援教育の中で発達障害者の支援を考える際に、どうしても「いま・ここ」での学校生活/家庭生活をどう支援するかに囚われてしまいがちだが、本書のように発達障害者の人生を長いスパンで考え、必要な教育内容や支援を検討する姿勢は重要に思う。