猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。ブログ名にあまり意味はありません。

行動カスプとは何か

応用行動分析学(ABA)のマイナー用語を調べてみようのコーナー。今回取り上げるのは行動カスプ(behavioral cusp)。カスプとは先端とかとがった部分という意味です。

この概念の提唱者はRosales-RuizとBaerという研究者で、1996年だとか1997年だとかがおそらく初出。

著者らによる行動カスプを説明している論文を見つけた。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1284066/

アブストラクトには次のように書いてある。

Certain behavior changes open the door to especially broad or especially important further behavior change, leading to the concept of the behavioral cusp. A behavioral cusp, then, is any behavior change that brings the organism’s behavior into contact with new contingencies that have even more far-reaching consequences.

人間の発達を行動分析の観点から考える際に、全ての行動が同じ重み付けでシステマチックに獲得されるのか、特定の随伴性の変化がその後の行動の変化において特に重要な意味を持つのかは、重要なテーマらしい。

行動カスプとは、その行動を獲得した個体は、新しい行動レパートリーを獲得する環境(強化子・弱化子・随伴性・刺激性制御)に導かれるという点で、その行動自体における変化を超えた結果をもたらすような行動のことである。

論文中では、その例としてハイハイが挙げられている。赤ちゃんはハイハイを獲得することにより、新しい環境への接触の機会が急激に増える。その結果として、様々な随伴性を獲得する機会を得て、行動レパートリーが広がる可能性が高まる。論文中で書かれる通り、赤ちゃんはハイハイを獲得することによってまさに新しい世界のドアを開いたのだ。

個体にとっての行動カスプを特定することができれば、標的行動の選択の際に、それを考慮して介入の目標設定ができるようになるなど臨床的にも意味のある概念に思う。何が行動カスプになりうるかに興味がある方は紹介した論文にあたると良いでしょう。

小倉晶男『福祉を変える経営ー障害者の月給1万円からの脱出ー』

福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出

福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出

著者の小倉さんは、クロネコヤマトで有名なヤマト運輸の元会長で、会長職を退いた後はヤマト福祉財団というところの理事長をしている人だ。

本の内容を一言で言えば、作業所などに代表される障害者福祉の業界にも経済学・経営学の考え方を持ち込み、障害のある人が自立して生活しているだけの給料を払えるようにするべきだ、とまとめられるだろう。

全部で4章からなり、1章では著者が福祉の仕事に就いた理由や日本の現状の障害者福祉の問題点などが書かれている。続く2章・3章では経済学、経営学のごくごく基本的な内容が書かれており、4章では、そうした経済学・経営学の視点を取り入れて、障害者に一万円よりもずっと多い給料を支払っている作業所の実践が紹介されている。

本の中で紹介されている著者らが仕組みを作ったスワンベーカリーというパン屋が現在どうなっているか調べてみたら、出版の時点よりも着実にフランチャイズ店が増えていた。店が増えているというのはそれだけ障害者の働く場が増えたということだ。

株式会社スワン

障害者の福祉を変えようと思い、実際にここまでの仕組みを作りあげる実行力のようなものは、さすが大企業の元経営者という感じで、勢いがあって読み応えのある本だった。

ABAと用語の誤用

以前の記事でも似たようなことを書いたが、最近ABA関連でまた誤用に出会った。

ABAにおける「ABABデザイン」という言葉が、「ベースラインに後続して介入条件Aと介入条件Bを繰り返す実験デザイン」だと勘違いされていた。ABAの適当な教科書を参照すればすぐに分かることであるが、ABABデザインにおけるAとはベースラインのことである。従属変数としての行動と独立変数としての環境変数との関数関係を明らかにしたいために、Bにおける環境変数を一旦もとに戻すのである。このデザインがリバーサルデザイン(reversal design)であったり、除去デザイン(withdrawbal design)と呼ばれている所以である。

これに限ったことではないのだが、ABA界隈で、用語の誤用が多いと感じている。今読んでいるクーパーらの本『応用行動分析学』でも、負の強化という概念が多くの学生を混乱させてきたことが書かれているし(p.66)、以前「死人テスト」について調べたときに読んだLindsleyの論文でも用語の問題について論じていたと記憶している。中途半端に日常的な感じなのが誤解を呼びやすいのだろうか。

まぁ何にせよ、誤った概念を広めないように再度学習していきたいと思う。

nekomosyakushimo.hatenablog.com
nekomosyakushimo.hatenablog.com

応用行動分析学

応用行動分析学

エクスクルーシブなインクルージョン

イギリス特別なニーズ教育の新たな視点

イギリス特別なニーズ教育の新たな視点

必要があってこの本を読んでいる。その中で次のような記述を見つける。

通常学校が不適切であると思われる子どもたちの中で、自閉症、すなわち自閉スペクトラムのいずれかの段階にあると診断された子どもの数が増加している。私たちは、このような子どもたちにとって、通常学校における「インクルージョン」は要するに何を意味するのか、そして、それは彼らにとって果たして良い経験になっているのかを問う必要がある。現状では、多くの場合、それは苦痛な「エクスクルージョン」の経験となっているように思われる。(ウォーノック, 2012, p.43)

日本でもインクルーシブ教育を進めましょうという方向性であるし、その流れで交流・共同学習を進めましょうということもよく言われる。それで、活動の場所は一緒になってみたものの、ただのお客さんだったり、ほぼほぼ支援者の介助で活動に参加していたりすることが多いという話も知り合いから聞く。

書かれているように、その場で行われる学習が「参加者にとってどういう経験なのか」をしっかり考えないとね。

正の強化・負の強化という言い方をやめにしよう

表題の通りの主張です。代わりに「好子出現の強化」「嫌子消失の強化」を使うと良いと思う。

なぜこんなことを思ったのかと言うと、先日「行動分析の専門家」を自称する人が負の強化を誤った用法で解説しているのを聞いたからである。その人はストーカーを例に出しながら、被害に遭っている人から「キモい」とか「やめて」とか言われたりするのが、「しつこく電話する行動」を強化していると説明し、このようなネガティブな内容でも行動を強化することがあることを「負の強化」だと説明していた。

この説明は完全に誤りである。被害に遭っている人からの「キモい」だの「やめて」だの反応がストーカーにとっての好子な訳だから、これは典型的な「正の強化」である。しかし、その専門家は「負の」という言葉のイメージに引きづられて、勘違いしてしまっている訳であった。

好子出現と嫌子消失という言い方にすれば、すくなくとも消失されているものは何もないだろうと気づいて、そんな誤解もなくなるだろう。

【関連】
nekomosyakushimo.hatenablog.com

ソーシャルストーリーとソーシャルナラティブ

ASDへの実践の文献を読んでいるとsocial narrativesという語によくあう。実践の内容や説明を見ているとソーシャル・ストーリーとほぼほぼ一緒なのだが、こっちの言われ方の方がよく見かける。

で、何か違うのかと調べていたら次のようなサイトを見つける。

theautismprogram.illinois.edu

要するにソーシャルストーリーという名称はキャロルグレイが商標登録したから、公認をされないと使ってはいけないという事情があり、内容にあまり違いはないらしい。

CiNii論文検索でソーシャルストーリーをキーワードにすると28件、ソーシャルナラティブだと2件で、日本だとソーシャルストーリーの方が使われているようだ。(全部が公認を受けた人が使っているかはさておき)

ソーシャルナラティブという用法を日本でおそらく初めて用いたであろう藤野・米山(2009:415)には、用語について以下のような注があった。

「ソーシャルストーリーTM」という名称は米国において 商標登録され,現在では Gray による公認を受けなけれ ば,この名称を使った講演,研修会,研究発表などを行 うことは許可されていない(Gray, 2006)。一方,Myles, Trautman, & Schelvan(2004)はソーシャルストーリーTM に代表される社会的状況の意味を説明し望ましい行動の 見本を記述した物語を使った支援方法の一般呼称として“Social Narrative(ソーシャルナラティブ)”という名称を 創案し使用している。本稿でも Myles らにならい,この ようなタイプの教育技術を「ソーシャルナラティブ」と 総称することにした。また先行研究で“Social Stories” を使用したと記載している論文でもGrayによる公認を受けたことが明記されていないものは“Social Narrative(ソーシャルナラティブ)”を使用したものと解釈し,本稿ではそのように表現した。

発達障害児に対するソーシャルナラティブによる介入の効果 : 行動上の問題の改善とソーシャルスキルの向上について: 東京学芸大学リポジトリ


私もGrayに公認を受けた訳ではないので、今後はソーシャルナラティブで通していこうかな・・・
(今度ストーリーの研修受けるけど)

続・シングルケース研究のグラフをRで描く

昨日の記事では折れ線グラフに白線を重ねて一部の線を消すなんて面倒くさいことをしたのだけれど、よくよく考えれば最初からデータを分けて入力してプロットすればいいだけの話であった。

データの準備の時点でフェイズごとにデータを分けて用意する。

#データ入力
phase1<- c(1:5) #ベースライン回数
selfinjury1 <- c(7,9,8,12,8) #ベースライン期の自傷行為の回数
phase2 <- c(6:20) #介入期期回数
selfinjury2 <- c(5,6,4,5,4,2,1,1,3,2,2,1,0,0,1) #介入期の自傷行為の回数

そして、それぞれのデータを共通のx軸、y軸でplot。

#ベースラインをプロット
plot(phase1, selfinjury1,
     type="o",  #マーカーと線を重ねる時はo
     pch=16, #●は16
     xlim = c(0,20), #x軸の範囲を指定
     ylim = c(0,12),  #y軸の範囲を指定
     xlab = "セッション回数",
     ylab = "自傷行為の生起頻度(回)"
)

#グラフの上書きを指定
par(new=T)

#介入期をプロット2
plot(phase2, selfinjury2, 
     type="o",  #マーカーと線を重ねる時はo
     pch=16, #●は16
     xlim= c(0,20), #x軸の範囲を指定
     ylim= c(0,12), #y軸の範囲を指定
     xlab="",  #軸のラベルを指定しないと変に重なる
     ylab=""
)

#垂線を描く
abline(v=5.5,lwd=2,lty=2)

f:id:nekomosyakushimo:20170426162544p:plain

こっちの方が断然簡単でしたね。

【関連】
nekomosyakushimo.hatenablog.com