猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

体罰に関して

体罰に関してあれこれ話をする機会があった。今でこそ表立った(?)体罰というのは教育現場で少なくなっているのだろうが、一部の運動部であったり、言葉のない知的に重い障害児教育の現場などでは、体罰の効果を信じている人を見たりもする。

体罰に関して、日本行動分析学会が2014年に反対する声明を出している。

www.jstage.jst.go.jp

科学の見地から体罰の効果が無いことや、体罰を用いることの副作用について紹介され、学会として体罰に明確に反対することが述べられている。社会における科学者の責務を果たすということで重要な声明だと思う。学校に関わらず教育や指導というものに関わる人にはぜひ一度読んでほしいと思う内容である。

ちなみに、正の弱化(正の罰)について、より学術的な議論については吉野の以下の論考が役立つだろう。

www.jstage.jst.go.jp

弱化の持つ直接的な効果と副次的効果について今までの研究成果がまとめられており大変参考になる。

自閉症の遺伝的関与に関する初期の研究

今では自閉スペクトラム症に遺伝子が関与していることはよく知られているが、下記リンクはその初期における重要な研究。少なくとも片方が自閉症の診断を受けている幼児期の21組の双子が研究の対象となった。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1469-7610.1977.tb00443.x


11組が一卵性(monozygotic:MZ)で10組が二卵性(dizygotic:DZ)であった。一卵性双生児の36%が自閉症の一致率があった一方で(つまり、4組が双子ともに自閉症)、二卵性双生児では0%の一致率であった。認知能力の異常に関しては、一卵性が82%の一致率である一方で二卵性では10%に止まった。 このことから、自閉症に限定はしないもの自閉症を含む認知的な異常について遺伝的影響が結論づけられている。

この研究がその後の自閉症と遺伝の多くの研究のきっかけとなったようである。

広い自閉症表現型について

以前少しだけ書いた広い自閉症表現型(Broader Autism Phenotype:BAP)について調べ物をしていたら、素敵なものを見つけた。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/9781118911389.hautc02

よくわからないがフリーアクセスである。ふとっぱらだね。

BAP研究についての流れとか、測定方法とか、領域とかが纏められていて参考になる。

【以前に書いたもの】
nekomosyakushimo.hatenablog.com

豊田秀樹編著『もうひとつの重回帰分析 予測変数を直交化する方法』

もうひとつの重回帰分析

もうひとつの重回帰分析

飛ばし飛ばしだが一応最後まで読んだ。

本書の根底にある問題意識は「重回帰分析において偏回帰係数の解釈の誤りがとても多い」ということで、それに対する改善案が提案されている。偏回帰係数は「他の予測変数(独立変数)の値が一定であるときに、当該の予測変数を1単位動かした時の基準変数(従属変数)の平均的な変化量」という意味を持っているのであるが、予測変数が多数ある場合にこの仮定は無理が大きくて実質的な解釈は困難が多い。

そこで、予測変数間の相関がゼロになるようにデータの収集を工夫しましょうというのが本書のテーマで、具体的には直交表を用いてコンジョイント分析をする方法が紹介されている。死刑判断に影響を及ぼす要因と魅力的なお見合いという例を元に分析の考え方やRを用いた具体的な手順が解説される。

データの生成過程というのが改めて大事だなぁと思い、実験計画の本を改めて読み直そうと思う読書だった。

IQの絶対値的な解釈

「〇〇をするにはIQ▲▲以上必要」みたいな文言、すなわち、IQを絶対値のように扱っている人に出会うことがある。よくってほどではないけれども、忘れていたころに「あぁ、またか」といった具合で出会う。

知能指数、IQ(=intelligence quotient)というのはシュテルンという心理学者が考え出したもので、精神年齢を暦年齢で割り100をかけたものがその始まりである。だから、6歳児のIQ100と8歳児のIQ100では持っている能力は違う。この場合、6歳児の精神年齢は6歳だが、8歳児の精神年齢は8歳である。(ここら辺の話は『人間の測り間違い』に詳しく書かれていたと記憶している。)

従って冒頭の「〇〇をするにはIQ▲▲以上必要」というのは明らかにおかしい訳である。これが「〇〇をするには発達年齢▲▲歳以上必要」だったら分かるのだけれども。

でも、繰り返しこういった表現に出会うということは、どこか私の知らないところで、IQが知能の絶対値を表している世界があるということなのだろうか。その場合は自分の勉強不足を恥じるだけなので、もし情報を持っている方がいたら教えてほしい。

人間の測りまちがい―差別の科学史

人間の測りまちがい―差別の科学史

発達障害と姿勢や身体の動きについて

仕事で小学校等を訪問していて、低学年の指導において姿勢や鉛筆の持ち方を丁寧に指導している学級を見た。クラスの子たちの字の形は大変整っといる印象を受けたが、そういえば自分はあまり姿勢とか身体の動きとかを熱心に調べたことがなかったと思い、次の論文を読んでみた。

www.jstage.jst.go.jp

2010年だし、まぁすごく古くというわけでもないでしょう。

前半は、障害種ごとに姿勢や身体の動きを取り扱う文献を概観しており、そこからは次のようなことが分かっている:

  • 複数の研究で自閉症児は姿勢や姿勢の動的な安定性において困難さを持つことが報告されている
  • 高機能自閉症アスペルガー症候群でも姿勢や身体の動きに課題がある
  • ADHDの3割〜5割が微細運動や全身運動の協調運動に問題があるとの報告がある
  • タイプにより苦手としている運動に違いがあり、不注意優勢型は操作などの微細運動、混合型はバランスなどの粗大運動を苦手とする報告がある
  • 衝動性多動性優位型は他のタイプと違った姿勢に課題を持つ可能性が示唆されている
  • ディスレクシアでは一定の割合で協調運動やバランスに問題を持つとの報告がある
  • ディスレクシアの運動の問題を読みの困難さ不注意や多動などのADHD様の症状と関連づけている報告もある

まとめると発達障害の場合、高い確率で姿勢や身体の動きに問題があると言えるだろう。

論文では次に、認知や行動、感情との関係が次の様にまとめられている。

  • 肢体不自由の認知発達の研究から姿勢と認知発達は相互に影響し合うことが推測される
  • 保護者への質問紙調査より、協調運動の遂行度、行動的問題には関連がある
  • 不安の高さと身体動揺の関連を調べた研究はあるがまだ確たることは言えない

論文の後半では、動作を切り口とした3つのアプローチが挙げられている。

1つはムーブメント教育であり、その根底には感覚運動の発達がその後の高次のスキルの習得に強い影響を及ぼすという考えがある。トランポリンやシーツブランコなどの遊具等を用いながら身体運動の経験を豊かにする中で感覚運動の発達を促していく。

2つ目は感覚と運動の高次化アプローチがある。身体と姿勢を発達を説明する枠組みの中核に位置付け、独自のアセスメントをもとに、感覚や身体運動を引き出すプログラムを組み立てて行う。

最後は臨床動作法である。そこでは、身体の動きの意図や努力性などの心的過程を重視して、思う様に動かせる身体(動作)を獲得していくことを狙いとされる。もともとはまひなどの肢体不自由児への適用がなされていたが、近年は発達障害児への適用事例も増えてきている。

最後に、今までの発達障害の支援が「認知」や「行動」面に重きを置いてきていることを指摘しつつ、姿勢や身体運動を切り口とした支援を充実させることで、より豊かな支援を行うことができるようになると主張している。


今まであまり関心がなかったのだが、実務上でそれなりに重要かとも思い始めたので、意識的に情報を得るようにしたいと思った。

感覚統合訓練って効果あるの?

少し前に友人と感覚統合系の人たちはバランスボール好きすぎじゃないか問題について話をした。それで、感覚統合系の業界での評価がどんなものなのかが気になり調べて見た。

日本語で読めるものでまず出て来たのがこれ。2006年とやや古い。

ci.nii.ac.jp

13件の研究が最終的なレビューの対象となっている。ざっくりと結果をまとめると:

  • エビデンスの質を表すエビデンスレベルはⅣとⅤ。ちなみに、エビデンスレベルでは一番良質なエビデンスはⅠで、最低のエビデンスはⅥとしている。Ⅳだった研究は群分けしてるけどランダム化の手続きがとられておらず、Ⅴだったものは症例集積研究だったそうである。
  • 上記のエビデンスの質および、効果の検証をしているデザインの少なさ、治療の副作用やコストの未検討、LDやMBDの症例群についてはある程度一貫した見解などを総合的にみて、「行うよう勧められるだけの根拠が十分でない(勧告C)」という強さの勧告だと判断されている。効果がないとは言い切れないけれど自信を持ってあるとは言えない、ということですかね。

次は英語のやつ。本文は読んでないのでアブストからのみ。

ASDを対象としたレビュー。2015年。レビュー対象は2000-2012年の研究。

A systematic review of sensory processing interventions for children with autism spectrum disorders. - PubMed - NCBI

含まれたのは19件の研究。介入の種類を2つに分けていて一つが、クリニックを中心にたくさんの感覚刺激の用いる系の感覚統合療法(sensory integration therapy)で、もう一つが教室を中心に、感覚への方略を一種類のみ使う(例えばバランスボールとか)系の感覚ベースの介入(sensory-based interventions、訳語は適当)だそうだ。前者が5件、後者が14件だった。ざっくりと結果をまとめると以下の通り:

  • 感覚統合療法の方には、ランダム化比較実験が2件あり,目標達成スケール(GAS)においてポジティブな効果があった。GASというのはリハの領域で使われているものらしく 最も望ましい状態から、最も望ましくないものまで5段階で設定するもののようだ。他の3件は、エビデンスレベルはⅢ-Ⅳなものの感覚に関連する問題行動を減らすのに効果があったらしい。
  • 感覚ベースの介入の方では、ポジティブな効果が得られた研究はほとんどなく、この介入には効果がないかもしれないことを示唆している。

この研究をみていると、教室で感覚系エクササイズを取り入れましょうとか、通級で感覚遊びとかは効果がないかもしれない。

次、2015年。アブストのみ読んだ。

link.springer.com

発達障害、LDを対象しているメタ分析。結果は次の通り:

  • 介入なしと感覚統合を比べると統計的に有意だが効果量は小さい。
  • 他の介入と感覚統合を比べると統計的に有意な差はない。
  • 研究の方法論的不備(介入法の明確な定義、測定のintegrity(うまい訳語が思いつかない)、研究の質、多様な結果の測定) があった。

上記を総合的に見て、感覚統合は診断群に対して効果的な介入であると示す根拠はほぼないと結論している。

次、アメリカ作業療法学会の学会誌。2017年。新しい。

Efficacy of Occupational Therapy Using Ayres Sensory Integration®: A Systematic Review | American Journal of Occupational Therapy

ステマチックレビューで障害のある人のICFにおける生活機能と参加が変容したかを検討。2007年から2015年で、3件のランダムか比較実験、retroactive分析(訳語は分からず)1件、単一事例の1件で全てが自閉症であった。

  • 目標達成スケールで測定される生活機能と参加において肯定的な結果を示す質の高い根拠が見出された。
  • 自閉的行動の改善に中程度の根拠、自助スキルにおいて養育者の介助の現象にも中程度の根拠があった。
  • その他、遊び、感覚運動、言語、ソーシャルスキル等では十分な根拠が見られなかった

作業療法の雑誌だからか、介入に対して一番肯定的な結果を書いている。


ここまでいくつかのレビューを見てきたけれど、レビューによっても結論が変わっているのでなんとも言えないですね。少なくとも、「全く効果がないとか」とも「効果に十分な根拠がある」とも言えない感じで、やりたい人はやればいいんじゃない?ぐらいがこれらから言えそうなことでしょうか。