猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

WISC-Vについて:WISC-IVからの変更点など

アメリカでWISC-Vが2014年に出版されたことは知っていたが、何がどう変わったかについては知らなかったので調べてみた。

参考としたのはこれらのスライド。
http://c.ymcdn.com/sites/www.tpaonline.org/resource/resmgr/Session132WISCVHandout.pdf
http://downloads.pearsonclinical.com/videos/WISC-V-020515/WISC-V-Advanced-Webinar-Handout-020515.pdf

あとこのQ&Aとか。
http://www.pearsonassess.ca/content/dam/ani/clinicalassessments/ca/programs/pdfs/wisc-v-cdn-faqs.pdf


毎度の注意書きですが、わたしはアマチュアなので間違えがあるかもしれませんので、その場合にはご指摘をやんわりと頂ければと思います。また、以下で使っている日本語訳はわたしが勝手に訳したものです。「もっと適当な訳があるよ」という場合はコメント欄にてご教示ください。

4つの指標得点が5つの主要指標得点(Primary Index Scales)に

まず、検査全体に関わる大きな構成の変化について。

WISC-IVでは全検査IQ(FSIQ)と4つの指標得点、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PRI PSI※2017年8月7日修正)で知能を表していた。しかし、WISC-Vでは、全検査IQ(FSIQ)と5つの主要指標得点(Primary Index Scales)で知能を表す。5つの主要指標得点とは、言語理解(VCI)、空間視覚(Visual Spatial Index)流動性推理(Fluid Reasoning Index)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PRI PSI※2017年8月7日修正)である。

ちょうど、WISC-IVのPRIが2つに分かれた形だ。視空間的な認知のVSIと非言語による推理のFRIはある程度別の能力だろうということが、神経心理学やら神経発達やら、因子分析やらの理論的な研究で明らかになったので2つに分けたということだろう。

補助指標得点(Ancillary Index Scales)と相補指標得点(Contemporary Index Scales)

主要指標得点以外にも、下位検査の組み合わせで様々な指標得点が出せる。これらから子どもの認知能力についてのさらなる解釈ができる。例えば、主要指標得点で不自然な差が見られた際に別の角度から検討することなどができるらしい。補助指標得点(Ancillary Index Scales)としては以下のようなものがある。

  • 数量的推理(Quantitative Reasoning Index)
  • 聴覚的ワーキングメモリー(Auditory Working Memory Index)
  • 非言語(Nonverbal Index)
  • 一般的能力(General Ability Index)
  • 認知技能(Cognitive Proficiency Index)

また、学習障害の子どものアセスメントとしての役目を果たす相補指標得点(Contemporary Incex Scales)には以下のようなものがある。

  • 呼称速度(Naming Speed Index)
  • 記号変換(Symbol Translation Index)
  • 貯蔵と想起(Storage and Retrieval Index)

これらの指標のそれぞれが何を指しているかについて書くと長くなるので、とりあえずここでは立ち入らない。

主要下位検査(Primary Subtests)と副次的下位検査(Secondary Subtests)

WISC-IVではFSIQを算出するのに使われていたのは10の下位検査だったが、WISC-Vでは10の主要下位検査(Primary Subtests)の内、以下の7つである。

  • 類似(Similarities)
  • 単語(Vocabulary)
  • 積木模様(Block Design)
  • 行列推理(Matrix Reasoning)
  • 図形の重さ(Figure Weights)← NEW!!
  • 数唱(Digit Span)
  • 符号(Coding)

また、次の3つは主要下位検査で主要指標得点を算出する際に使われる。

  • 視覚パズル(Visual Puzzles)← NEW!!
  • 絵の記憶(Picture Span)← NEW!!
  • 記号探し(Symbol Search)

FSIQを出すだけなら、WISC-IVに比べて25分から30分早く実施できるらしい。また、IVのときと同じく10の下位検査を使って主要指標得点を出す場合でも10分程度短く実施できるらしい。


WISC-IVから無くなった下位検査


語の推理(Word Reasoning)
言語理解の指標を出すにあたって、余分。
知識と高い相関もあるから別にやらなくてもいいとの理由で削除。


絵の完成(Picture Completion)
他の下位検査と同程度に、空間視覚に関する能力を代表しているとは言えないので削除。


継続して行われている下位検査にも、細々とした変更はなされているが、ここでは省略。


新しく加わった下位検査

視覚パズル(Visual Puzzles)
子どもは幾何学模様の絵柄のパズルの完成形を見る。その幾何学模様のパズル片が選択肢に与えられており、完成させるのに必要なパズルの片3つを選ぶ。制限時間は30秒。抽象的な情報を分析したり統合したりする力を測っている。VSIを出す下位検査。

図形の重さ(Figure Weights)
両サイドに三角や四角などの図形が載っていて釣り合っている天秤秤を子どもは見る。載っている図形の一部が空欄になっており、子どもはそこから図形の重さを推測し、天秤が釣り合うように空欄に当てはまる図形を選択肢の中から選ぶ。制限時間は20秒から30秒。量的で類推的な流動的推理を測っている。FRIを出す下位検査。

絵の記憶(Picture Span)
子どもは1つないしは複数の絵を見る。その後、多くの種類の絵が含まれる列の中から、最初に見せられたのと同じ順番で選択する。正しい絵を正しい順番で選択できた場合は2点、正しい絵だが順番が違っている場合には1点をつける。順向干渉を伴うシンプルな絵の記憶課題である。WMIを出す下位検査。

整列数唱(Digit Span Sequencing)の課題を数唱内に追加
全く新しい下位検査というわけではないが、数唱の中に新しく課題として加わった。検査者が一連の数字を読み上げ、子どもはそれを昇順に並び替えて答える。ワーキングメモリーや心的操作の能力を測っている。WMIを出す下位検査。


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と、ここまで調べたことを書いてきました。WISC-IVはアメリカで2003年に出て、2010年に日本語版が完成なので、7年間の月日がかかった訳ですが、2014年に発刊されたWISC-Vの日本語版は果たしていつごろ完成するのでしょうか。まだ、しばらく先ですかね、、、


【追記】
日本での標準化についても進んでいるようです。以下の記事もどうぞ。

nekomosyakushimo.hatenablog.com