猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

TTAP研修会

先日、フロム・ア・ヴィレッジ主催のTTAPの研修会を早稲田大学で受けてきた。講師は梅永先生。本当は服巻先生も一緒に講師をされる予定だったのだが、骨折をしているらしく来れないのだそうだ。

TTAPとはTEACCH Transition Assessment Profileの略で日本では「自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィール」と訳されている。ASDの人が施設や学校から就労へ移行するにあたり、必要な指導目標を設定したり、具体的な支援の方法についての情報を得ることができるアセスメントである。

研修の内容としては、まずASDの認知特性やら学習スタイルやらから入り、構造化の話、ソフトスキルの話を挟んでTTAPの説明へと。TTAPの説明では写真を使いながらフォーマルアセスメントの内容の解説の後、実際に検査用具を使ってグループごとに検査の練習。最後はインフォーマルアセスメントの概要を駆け足で講義して、事例報告が2本と大変盛りだくさんな内容だった。

本当だったら2DAYSのセミナーなのだが会場の関係でそれを1日にギュッとまとめたそうだ。でも、インフォーマルアセスメントまでしっかりやろうとすると2日が適切に思う。とりあえず、短い時間で大量の情報を処理しなければならず大変だった。

雑多な感想

  • 北海道とか遠方からも来ていてる人も多くみんな熱心だと思った。
  • 学校関係より、医療、福祉関係者の方が多かった。(わたしの参加した10名程度のグループで学校関係は一人だった)
  • 検査用具が多くてごちゃごちゃするので、用具準備しながら様子見るの難しい。練習大事。
  • 検査の順番とかが柔軟な分、実施する施設ごとにスタンドードな実施手順を定めておくと良いかも。
  • 指導目標設定と支援の手立てが同時に分かるというのは大変すぐれていると思う。
  • 今回の1日の研修でアドバンスの研修の参加資格になるのか??

自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィール―TTAPの実際

自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィール―TTAPの実際

前川久男・梅永雄二・中山健編『発達障害の理解と支援のためのアセスメント』

発達障害の理解と支援のためのアセスメント

発達障害の理解と支援のためのアセスメント

目次を見て、発達障害支援の界隈で使われている様々なアセスメントの概要をさらっと紹介している本かな、と思い軽い気持ちで読み始めたのだが、前川による第1章「発達障害アセスメントとその目的」を読み、軽い気持ちで読み進めるなんて到底無理だったということを思い知る。大変難しいのだけど(わたしに前提とする知識が足りないからかもしれないけど)、同時にかなり刺激的で面白い。自分の持つアセスメント観に大変影響を与えるものであったと思う。

以下では、前川論文の簡単なまとめと読んで考えたことを書く。


この論文では、ヴィゴツキーとルリアの考え方をもとにアセスメントとその目的を論じている。5つの節から成っており、それぞれの見出しは以下の通りである。

  1. ヴィゴツキーとルリアからアセスメントを考える
  2. 機能システムとしての分析
  3. アセスメントから支援、指導へ
  4. プランニング(実行機能)の発達と支援
  5. おわりに

ヴィゴツキーは、アセスメントにおいて感情、知覚、行為の統一体として意味(senses)を分析する必要性を説いている。それぞれの要素から人間の活動を捉えることだけでは不十分で、それらの意味という全体の統一として捉えることが重要であると考えている。

ルリアは、精神機能を、特定の脳領域の役割として捉えるのではなく、文化的手段の獲得によって発達する複雑な機能システムであると論じている。この構造は「課題や条件に応じて遂行の仕方を調節できるフィードバックメカニズムによって相互に結び付けられた一連の遠心性のインパルスと求心性のインパルスからなっている。(p.5)」

ヴィゴツキーとルリアのどちらも、高次精神機能を考える際にその構成要素を独立したものとして捉えるのではなく、それらの要素同士の全体としての統一や協働を重視している。この考え方は、臨床心理学的アセスメントの目標を「目的を達成しようとする人間の活動を支えている機能システムを分析すること(p.6)」へと導く。多様な要素のダイナミックな関連を想定しつつ、機能システムの状態を説明することができる仮説を導くことが、ヴィゴツキーとルリアから考えるアセスメントの役割である。


以下は自分の関心に寄せて考えたこと。

論文の中で、ヴィゴツキーとルリアによる高次精神機能の発達は次のように説明されている。高次精神機能の発達は文化的手段の獲得に依存している。この文化的手段は社会的な相互作用が行われる実践の場で獲得されるものと考えられている。また、文化的手段は初めは相互心理学的な過程の中で外的なものとして使用され、その後内化される形で獲得されていると考えられている。

さて、自閉スペクトラム症がある場合には、この文化的手段の獲得に失敗していることが少なくない。言葉や道具の社会−文化的な意味の獲得あたりはその代表的なものだろう。これは自閉スペクトラム症の人の、対人的相互交渉の質的な障害が影響を及ぼしていると考えて差し支えないだろう。自閉スペクトラム症の人も生まれてから、ずっと社会−文化的な環境の中に身を置き、おそらく大人やより進んだ子どもが彼ら・彼女らに関わってきているはずだが、発達の最近接領域で機能してこなかったという訳である。

では、自閉スペクトラム症の人との社会的な相互作用がいかにして成立するかというのが、高次精神機能の発達を考える際に重要なのだろう。PECSを使うと発語が促進されるみたいな話があるのは、ここらへんに関係しているのではないかと思う。意味のある相互交渉が文化的手段の獲得にどう影響を与えるのかというのは今後も考えていきたいテーマである。絵カードという文化的手段はどのように内化されるのか、それは音声言語と違っているのか、などなど。

また、テンプル・グランディンさんのような高機能で成功している人の高次精神機能が定型発達の人のそれとどう違っているか、というのも考えるべきなのかもしれない。というのも、発達の最近接領域を考えるにあたって、定型発達の人のようには発達しないが、違った形には発達していく可能性が考えられるからである。もしそうなのであれば、発達の最近接領域において果たす大人の役割というのも変わってくるはずだからである。


とりあえず、ヴィゴツキー、ルリア、DN-CAS、神経心理学関係をもう少し勉強したら、また考えてみたい。

WISC-Vについて:WISC-IVからの変更点など

アメリカでWISC-Vが2014年に出版されたことは知っていたが、何がどう変わったかについては知らなかったので調べてみた。

参考としたのはこれらのスライド。
http://c.ymcdn.com/sites/www.tpaonline.org/resource/resmgr/Session132WISCVHandout.pdf
http://downloads.pearsonclinical.com/videos/WISC-V-020515/WISC-V-Advanced-Webinar-Handout-020515.pdf

あとこのQ&Aとか。
http://www.pearsonassess.ca/content/dam/ani/clinicalassessments/ca/programs/pdfs/wisc-v-cdn-faqs.pdf


毎度の注意書きですが、わたしはアマチュアなので間違えがあるかもしれませんので、その場合にはご指摘をやんわりと頂ければと思います。また、以下で使っている日本語訳はわたしが勝手に訳したものです。「もっと適当な訳があるよ」という場合はコメント欄にてご教示ください。

4つの指標得点が5つの主要指標得点(Primary Index Scales)に

まず、検査全体に関わる大きな構成の変化について。

WISC-IVでは全検査IQ(FSIQ)と4つの指標得点、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PRI PSI※2017年8月7日修正)で知能を表していた。しかし、WISC-Vでは、全検査IQ(FSIQ)と5つの主要指標得点(Primary Index Scales)で知能を表す。5つの主要指標得点とは、言語理解(VCI)、空間視覚(Visual Spatial Index)流動性推理(Fluid Reasoning Index)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PRI PSI※2017年8月7日修正)である。

ちょうど、WISC-IVのPRIが2つに分かれた形だ。視空間的な認知のVSIと非言語による推理のFRIはある程度別の能力だろうということが、神経心理学やら神経発達やら、因子分析やらの理論的な研究で明らかになったので2つに分けたということだろう。

補助指標得点(Ancillary Index Scales)と相補指標得点(Contemporary Index Scales)

主要指標得点以外にも、下位検査の組み合わせで様々な指標得点が出せる。これらから子どもの認知能力についてのさらなる解釈ができる。例えば、主要指標得点で不自然な差が見られた際に別の角度から検討することなどができるらしい。補助指標得点(Ancillary Index Scales)としては以下のようなものがある。

  • 数量的推理(Quantitative Reasoning Index)
  • 聴覚的ワーキングメモリー(Auditory Working Memory Index)
  • 非言語(Nonverbal Index)
  • 一般的能力(General Ability Index)
  • 認知技能(Cognitive Proficiency Index)

また、学習障害の子どものアセスメントとしての役目を果たす相補指標得点(Contemporary Incex Scales)には以下のようなものがある。

  • 呼称速度(Naming Speed Index)
  • 記号変換(Symbol Translation Index)
  • 貯蔵と想起(Storage and Retrieval Index)

これらの指標のそれぞれが何を指しているかについて書くと長くなるので、とりあえずここでは立ち入らない。

主要下位検査(Primary Subtests)と副次的下位検査(Secondary Subtests)

WISC-IVではFSIQを算出するのに使われていたのは10の下位検査だったが、WISC-Vでは10の主要下位検査(Primary Subtests)の内、以下の7つである。

  • 類似(Similarities)
  • 単語(Vocabulary)
  • 積木模様(Block Design)
  • 行列推理(Matrix Reasoning)
  • 図形の重さ(Figure Weights)← NEW!!
  • 数唱(Digit Span)
  • 符号(Coding)

また、次の3つは主要下位検査で主要指標得点を算出する際に使われる。

  • 視覚パズル(Visual Puzzles)← NEW!!
  • 絵の記憶(Picture Span)← NEW!!
  • 記号探し(Symbol Search)

FSIQを出すだけなら、WISC-IVに比べて25分から30分早く実施できるらしい。また、IVのときと同じく10の下位検査を使って主要指標得点を出す場合でも10分程度短く実施できるらしい。


WISC-IVから無くなった下位検査


語の推理(Word Reasoning)
言語理解の指標を出すにあたって、余分。
知識と高い相関もあるから別にやらなくてもいいとの理由で削除。


絵の完成(Picture Completion)
他の下位検査と同程度に、空間視覚に関する能力を代表しているとは言えないので削除。


継続して行われている下位検査にも、細々とした変更はなされているが、ここでは省略。


新しく加わった下位検査

視覚パズル(Visual Puzzles)
子どもは幾何学模様の絵柄のパズルの完成形を見る。その幾何学模様のパズル片が選択肢に与えられており、完成させるのに必要なパズルの片3つを選ぶ。制限時間は30秒。抽象的な情報を分析したり統合したりする力を測っている。VSIを出す下位検査。

図形の重さ(Figure Weights)
両サイドに三角や四角などの図形が載っていて釣り合っている天秤秤を子どもは見る。載っている図形の一部が空欄になっており、子どもはそこから図形の重さを推測し、天秤が釣り合うように空欄に当てはまる図形を選択肢の中から選ぶ。制限時間は20秒から30秒。量的で類推的な流動的推理を測っている。FRIを出す下位検査。

絵の記憶(Picture Span)
子どもは1つないしは複数の絵を見る。その後、多くの種類の絵が含まれる列の中から、最初に見せられたのと同じ順番で選択する。正しい絵を正しい順番で選択できた場合は2点、正しい絵だが順番が違っている場合には1点をつける。順向干渉を伴うシンプルな絵の記憶課題である。WMIを出す下位検査。

整列数唱(Digit Span Sequencing)の課題を数唱内に追加
全く新しい下位検査というわけではないが、数唱の中に新しく課題として加わった。検査者が一連の数字を読み上げ、子どもはそれを昇順に並び替えて答える。ワーキングメモリーや心的操作の能力を測っている。WMIを出す下位検査。


−−−−−

と、ここまで調べたことを書いてきました。WISC-IVはアメリカで2003年に出て、2010年に日本語版が完成なので、7年間の月日がかかった訳ですが、2014年に発刊されたWISC-Vの日本語版は果たしていつごろ完成するのでしょうか。まだ、しばらく先ですかね、、、


【追記】
日本での標準化についても進んでいるようです。以下の記事もどうぞ。

nekomosyakushimo.hatenablog.com

杉山登志郎編著『アスペルガー症候群と高機能自閉症の理解とサポート』

書名の通り、知的障害がない自閉スペクトラム症の人たちについて基本的な障害特性や指導・支援の事例が紹介されている。

それぞれの章が短くかつ読みやすく書かれているので、そうした人たちへの関わり方を初めて学ぶ人は読んでみると良いと思う。

知的に遅れがなく、学習や口頭でのやりとりが可能な為、障害特性が見えづらく理解されづらい彼ら彼女らの困難さが書かれている。今でこそその障害特性は多くの人に知られるようになったものの、2002年にこの本が出版された段階での周囲の理解の状況を知るという点でも有用かもしれない。

ナグリエリ・ピカリング『DN-CASによる子どもの学習支援―PASS理論を指導に活かす49のアイデア―』

DN‐CASによる子どもの学習支援―PASS理論を指導に活かす49のアイデア

DN‐CASによる子どもの学習支援―PASS理論を指導に活かす49のアイデア

  • 作者: J.A.ナグリエリ,E.B.ピカリング,前川久男,中山健,岡崎慎治
  • 出版社/メーカー: 日本文化科学社
  • 発売日: 2010/12/05
  • メディア: 単行本
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人の認知処理がどうなっているかであったり、それが学習や日常生活とどう関連しているかに興味があり読んだ。

DN-CASというのはダスとナグリエリが開発したアセスメントでPASS理論という認知処理過程の理論に基づいている。

PASS理論では、人間の認知処理をプランニング(Planning)、注意(Attention)、同時処理(Simultaneous)、継次処理(Successive)の4つからなる過程で捉えている。これらの認知処理過程は読み、書き、計算といった学習や、その他日常生活の様々な活動に関わっている。

DN-CASでは、4つの認知処理過程のそれぞれの得点を算出することができる。そうすることにより、対象者の認知処理の強みや弱みに応じた学習支援を実施することができる。

この本は、DN-CASの検査結果をもとに指導や支援を行なう人の視点に立って書かれている。検査を実施する人のためのマニュアルではなく、検査結果をいかに活用するかということが焦点である。

第1部ではPASS理論についての簡単な解説とPASS理論を用いた支援の事例紹介がなされる。第2部では、PASS理論を活かした学習支援の指導案が紹介され、認知処理と学習技能を関連付けた指導方法の例を多数見ることができる。

訳が良く、非常に読みやすいのでPASS理論の概要や支援にどうつながるのかを知りたい人にはオススメである。

ラニングについての指導案を読んでいて、テストを受けるための方略や学習スタイルについての学習など、学習そのものではないが学習を支える技能というのはもっと重視されるべきだよなぁと考えていた。特に、通級指導教室とかではけっこう使えるのではないだろうか。

あと、英語圏と日本語圏の学習支援だともろもろ事情が違う所もあるだろうから(つづりの指導、漢字の指導、作文教育への意識の違い等)、事例が蓄積されて、この本の日本の学習環境版のようなものが出てほしいなぁとも思った。

多層指導モデルMIMについて

少し前に多層指導モデルMIM(Multilayer Instruction Model)の研修を受けてきた。前々から良いモデルだと思っていたけれども、やっぱり良いモデルなのを再確認したので紹介しておきたい。

まず、MIMってなんぞや?って人は以下のリンク先を見ると良い。

forum.nise.go.jp

概要から、活用方法から、地域での活用事例など盛りだくさんの内容が載っている。アセスメントから指導までがパッケージングされていて、かつ、現場での使いやすさが考えられていてとても良いと思う。

次に、MIMで言われる「視覚化」「動作化」などを用いた具体的な指導方法の様子を知りたい方は以下のリンク先を見ると良い。

小学校国語 動画で分かる! 特殊音節指導の工夫

東京書籍がMIMの要素を取り入れて特殊音節のページを教科書に載せた際に作ったもので、なんとネットで無料で見れる。もともとはネットで公開するつもりでは無かったらしいのだけれど、海津先生が東京書籍の方に言ったら公開することになったらしい。大盤振る舞い!

ちなみに、今は算数版のMIMも開発しているそうで『教育心理学研究』にそれについての論文が載っている。

算数につまずく可能性のある児童の早期把握

RTIの考え方というのは早期支援には欠かせないものに思うので、「読み」だけでなく「作文」だの「算数」だの「英語」だの、色んなMIMが開発されれば良いと思う。

ちなみにちなみに、9月にはMIMの活用についての本も出るらしい。

多層指導モデルMIM アセスメントと連動した効果的な「読み」の指導: つまずきのある「読み」を流暢に

多層指導モデルMIM アセスメントと連動した効果的な「読み」の指導: つまずきのある「読み」を流暢に

「通常級で特別支援を」と考える方はぜひ知っていただき、実践してもらいたい。

Finn Comfort MILANO

フィンコンフォート メンズビジネスシューズ 1201(MILANO) クロスムース (9(26.7cm))

革靴が結構好きです。安くもないけど高級靴でもない程度の靴を休日にせっせと磨くのはかなり楽しいです。健康的でない趣味だとは言われますが。

結構前に、シューフィッターがいる店で足の正確なサイズを測ってもらったのですが、どうやらわたしの足は薄くて細いらしく、既成品の多くの靴と合わないと言われました。で、その中でも比較的合う方として探してもらったのが、このFinn Comfortというメーカーの靴。ドイツの健康靴のメーカーみたいです。なんか納得の野暮ったいデザインです。

ただ、履いてみるとさすが健康靴のメーカーで、かなり履き心地が良く、すぐに気に入り購入してしまいました。

1年以上履いていますが、履き心地は変わらず、歩くのが楽しくなる靴です。

多少デザインが野暮ったくても、履き心地を求める方は、Finn Comfortを試してみると良いかもしれません。