猫も杓子も今年の3冊【2018年】
全く余裕がなくて記事の更新がストップしているけれど, 年一で書いているシリーズものぐらいは更新しておこうかと思います。
過去のもの
猫も杓子も今年の3冊【2017年】 - 猫も杓子も構造化
猫も杓子も今年の3冊【2016年】 - 猫も杓子も構造化
猫も杓子も今年の3冊【2015年】 - 猫も杓子も構造化
心理学関係
- 作者: 森口佑介
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2014/03/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
発達関連について学ぶことが多い1年だった。SENSのセミナーなんかだと, 発達障害を理解するために「とりあえず定型発達の道筋をみましょう」みたいなノリでピアジェとかが紹介されたりする印象があるけれども, ピアジェ以降の発達心理学が何を積み上げてきたかについて言及されることは少ない。本書は著者のブログをリライトしたもので, 非専門家である人でも読みやすいし, 引用がしっかりとされているので, ここを入り口にさらに調べていくことも可能である。
障害児教育関係
- 作者: 宇佐川浩
- 出版社/メーカー: 学苑社
- 発売日: 2007/07
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
発達というととかく認知面を解説する本が多いが, この本は発達の中心に感覚と運動を据えている点で大変ユニーク。著者の臨床経験に基づく独自の理論が展開されている。臨床のアイディアは豊富に得られると思う。
統計関係
調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)
- 作者: 星野崇宏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/07/29
- メディア: 単行本
- 購入: 29人 クリック: 285回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
調査観察データを扱うことはあまりないのですがお勉強として。非実験系のデータで因果推論をしたい人は必読に思う。
みなさま良いお年を。
確認的因子分析の際のモデルの識別についての調べ物
必要があってモデルの識別についての調べ物をしたその覚書。
使うデータはおなじみHolzingerSwineford1939
。
潜在変数間に相関を仮定しない次のようなモデルを作ってみる。
library(lavaan) dat <- HolzingerSwineford1939 model1 <-" A =~ x1 + x2 B =~ x4 + x5 + x6 C =~ x7 + x8 + x9 A ~~ 0*B A ~~ 0*C B ~~ 0*C " res1 <- cfa(model1,dat=dat)
このときに、観測変数が2つだけ(潜在変数Aの部分)だとモデルが識別できないとエラーを吐く。
警告メッセージ: lav_model_vcov(lavmodel = lavmodel, lavsamplestats = lavsamplestats, で: lavaan WARNING: Could not compute standard errors! The information matrix could not be inverted. This may be a symptom that the model is not identified.
エラーメッセージの通り標準誤差が算出されない。
Latent Variables: Estimate Std.Err z-value P(>|z|) A =~ x1 1.000 x2 0.661 NA B =~ x4 1.000 x5 1.133 NA x6 0.924 NA C =~ x7 1.000 x8 1.225 NA x9 0.854 NA
ミューテン先生によると次のようなことが原因だと。(これはbifactorモデルについてのところでの説明)
When specific factors have only 2 indicators you cannot identify the loading for the second of those indicators. Think of the specific factor as absorbing a residual correlation between those 2 indicators - there is only 1 such correlation and therefore you can only identify 1 parameter, in this case the specific factor variance.
これを潜在変数間に相関を仮定した次のようなモデルにすると識別エラーは解決する。
model2 <-" A =~ x1 + x2 B =~ x4 + x5 + x6 C =~ x7 + x8 + x9 " res2 <- cfa(model2,dat=dat)
ちゃんと標準誤差も算出できている。
Latent Variables: Estimate Std.Err z-value P(>|z|) A =~ x1 1.000 x2 0.438 0.129 3.401 0.001 B =~ x4 1.000 x5 1.113 0.065 17.073 0.000 x6 0.923 0.055 16.708 0.000 C =~ x7 1.000 x8 1.180 0.165 7.175 0.000 x9 1.018 0.141 7.205 0.000
潜在変数が無相間だから、Aの部分だけで考えると、p(p+1)/2 = 3 (pは観測変数の数)で、ここから推定する母数の数を引いた値がプラスにならないとモデルが識別されないこととなる。で、最初のモデル1だと潜在変数からのパス1本と残差の分散2つでの3つの母数を推定しているので, 3-3=0となりこれがいかんようだ。制約を例えば次のように足してみると無事に識別される。
model3 <-" A =~ x1 + x2 B =~ x4 + x5 + x6 C =~ x7 + x8 + x9 A ~~ 0*B A ~~ 0*C B ~~ 0*C x1~~1*x1 " res3 <- cfa(model3,dat=dat)
標準誤差もちゃんと計算されている。
Latent Variables: Estimate Std.Err z-value P(>|z|) A =~ x1 1.000 x2 1.137 0.333 3.410 0.001 B =~ x4 1.000 x5 1.133 0.067 16.906 0.000 x6 0.924 0.056 16.391 0.000 C =~ x7 1.000 x8 1.225 0.190 6.460 0.000 x9 0.854 0.121 7.046 0.000
とりあえずここまで。
ここのところの読書
忙しいので記事にするだけのまとまった時間がとれないのですが、(後の自分のための)読んだという記録だけでも。
- 作者: 宇佐川浩
- 出版社/メーカー: 学苑社
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
もっと早く読むべきだった。そのうち記事にする。
- 作者: 前川久男・中山 健・岡崎慎治
- 出版社/メーカー: 日本文化科学社
- 発売日: 2017/03/15
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
主に仕事の必要性で読んだ。この本の出版で心理臨床にはだいぶ使いやすくなったんだろう(多分)。
教師と学校が変わる学校コンサルテーション (ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ)
- 作者: 奥田健次,柘植雅義
- 出版社/メーカー: 金子書房
- 発売日: 2018/09/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
これも仕事の都合。コンパクトだけれども外部から学校に関わる人は読んで損はないと思う。
- 作者: 三中信宏
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2018/05/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (21件) を見る
統計学の世界における分析と分析のつながりが曼荼羅で可視化されていて良い。最初の1冊ではないとは思うが、ある程度学んで色々としっくりきていない人は勉強になると思う。
調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)
- 作者: 星野崇宏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/07/29
- メディア: 単行本
- 購入: 29人 クリック: 285回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
大変勉強になる読書。調査観察データから因果推論やりたい人は必読。
- 作者: ジャニス・ウッドキャタノ,三沢直子,Janice Wood Catano,幾島幸子
- 出版社/メーカー: ひとなる書房
- 発売日: 2002/08/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 18回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
カナダで無料で親に配布される子育て小冊子をまとめたもの。これも仕事の都合で読んだ。親が子育てに追い詰められないために必要な基礎的な知識から具体的な方法まで。「親だって人間です」からスタートするのがいいですね。
Fisher流とNeyman-Pearson流とp値と心理学と
日心のシンポで知り読んだ。大変勉強になる論文だった。
Fisher は p 値を,統計家がデータの解析結果を「報告」するときのモノサシと位置づけ,比較試験の結果,効果があったか否かの「判定」は,臨床試験の主査である医師が単独あるいはグループ討議によって,報告された p 値,対象とする疾患,症例数等を吟味して総合的に「判定」すべきであると考えた. (p.154)
Neyman-Pearson 検 定では p 値の大きさは問わない.例えば,有意水準を5% に定めるとき,p 0.0001 であろうがp = 0.049 であろうが,その違いは無視して一律に「有意水準 5% で有意な差あり」とする.(p.155)
Fisher は,科学的知識を深める研究はいくつもの段階からなっており,統計的検定は,その中の一つに適用される方法にすぎない.統計的検定で臨床研究の成果を「判定」するなどとんでもないと考えていたようである.(p.159)
本来Neyman-Pearson流に行けば、「医学的に意味のある差 δ」を設定し、有意水準と検出力からサンプルサイズを設定した上でデータを検定にかけるのだが、これらのステップを無視していきなり検定にかける習慣がこの論文で批判の対象となっている。
私は一応心理学を勉強しているので自分の文脈で考えてみる。
サンプルサイズの設計については村井・橋本(2017)『サンプルサイズ設計入門』であったり、南風原(2014)『続・心理統計学の基礎』であったりに載っているが、基本的なテキストで詳しく扱われることは多くない印象を持っている。
もっとも「心理学的に意味のある差」というのがそもそもどういったものか。これを設定しないことにはNeyman-Pearson流の検定は使えない。だけどこれを設定することの難しさみたいなものが、この手順をすっとばしてくることに繋がったのかもしれない。「心理学的に意味のある差」というのは対象とする心理学的現象によって異なるのだろうし、そもそも意味のある差を「判定」する必要性というのがどれだけあるのかも考えないといけないだろう。
こうした基本的な部分をすっ飛ばして方法論だけを輸入して誤用を続けてきたのが、心理学の歴史な訳である。大切なのは、心理学の具体的な各領域において、統計的な手法に何を任せるべきなのか(意思決定なのか推定なのか等)といった基礎的な議論を改めてすることなのではないかと思った。
- 作者: 村井潤一郎,橋本貴充
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/03/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
続・心理統計学の基礎--統合的理解を広げ深める (有斐閣アルマ)
- 作者: 南風原朝和
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2014/12/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (4件) を見る
【関連ある過去記事】 nekomosyakushimo.hatenablog.com
心理学における測定について
- 作者: 渡邊芳之
- 出版社/メーカー: 朝倉書店
- 発売日: 2007/09/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログを見る
3章「測定をめぐる諸問題」を読んだ。気になったところのメモ。
実験でも理論的も基礎でも臨床でもない領域, それは教育心理学, 発達心理学, 社会心理学といったものであり, 実験心理学よりも具体的な生活文脈に即して対象にアプローチし, 臨床心理学よりも実証を重んじる領域であるといえよう.(p.72)
心理学の各分野の実証を重んじる姿勢の違いについて。
通常, 質問紙調査の場合,「心が狭い」と回答した人に対して, この人は心が広い, とは考えない. 回答者自身の回答を尊重し, この人は心が狭い人だと理解する. このように考える前提には, 回答者は①自身のふだんの行動や心の動きを内省することができ, ②その結果に基づき正直に回答するはずだ, ということがおそらくあるはずである。(p.74)
質問紙調査持つ前提を検討しているが, 改めて言葉にするとすごい前提の上に調査法に思う。
「個性ある機械」としての回答者観, ひいては人間観(p.76)
質問紙調査の前提とする人間観について。
もし, この前提[ある人のある特性には真の値という唯一の値がある(一意に決まる)]を疑うなら, 同一特性・異方法が前提とした「同一」の特性がないかもしれない, ということになる. (中略)そして, 心理的属性・特性が時や状況を通じて基本的に変動しないという前提がないと, (少なくとも古典的テスト理論の)信頼性も妥当性も成立しないのである(p.85)
人には一定程度の多面性, 多様性があり, 誰と接しているときか, あるいは, 何歳頃かによっていくつもの本当の自分がいる, という発想に基づいた測定(論)もありうるのではないかということである.(p.86)
心理学が測定している心理的属性・特性観の問い直し。
小川浩『重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門』
- 作者: 小川浩
- 出版社/メーカー: エンパワメント研究所
- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログを見る
ジョブコーチ入門という書名の通りで、ジョブコーチというのがどういう仕事をする人でどういった専門性が必要とされるかについて、初学者にとってもわかりやすく書いてある。
自分は仕事の都合で学校教育の現場に関わることが多く就労支援や就労移行に直接的には関わる機会は少ないので、自分の実務に直接的に役に立つ内容が書いてあった訳ではないのだけれど、別の視点で役に立つことがたくさん書いてあった。それは、外から入っていて現場の状況を把握しながら支援の環境を構築していくジョブコーチの仕事というのが、学校における外部専門家の立場に近しいものを感じていて、外から入った人がどう内部の関係性を変えていくかという観点でとても参考になる点が多かった。
たとえば、「ジョブコーチは企業の支援者でもある(p.38)」との項では、福祉の世界の価値観と一般企業の価値観が時に違うことを指摘しながら、ジョブコーチは双方の価値観に成立することが書かれている。これを、特別支援教育の外部専門家の立場に置き換えると、ときに学校の先生の価値観と支援の価値観とは対立することがあるのだけれど、そうしたときに先生たちの持っている価値観なり観点を考慮していないで特別支援教育の理屈や価値観だけを振りかざしているようだと専門家としては必要とされなくなってしまうだろう(必要以上に現場の先生をディスったり、そもそものリソースの違いを認識していない特別支援関係者にはたまに出会う)
現場の人同士の関係性を把握するという観点で、「従業員情報をつかむ(p.61)」という項も大変参考になった。そこでは、ナチュラルサポートの形成のために従業員マップを作ることを提案している。特別支援教育でも、校内のキーパーソンを把握して「誰に」「何を」働きかけていくかが外部から関わる際に非常に重要である。月に数回や年に数回しかいかないような現場においては、自分ができることは限られているので、いかに現場の力学関係を把握するかは重要だろう。
あとは、「記録のとる際のコストについての考え方(p.81)」であったり、「レディネスモデルと援助付き雇用モデルの対比(p.18)」など、就労支援の現場において役に立つと同時に、これらは考え方は他の現場にも応用の可能性的あるのではないかと思い読んでいた。
薄くてかつ図が多くすぐ読める。就労支援に携わる人はもとより、対人援助に関わる人が読んで得るものも多いと思う。
続・システマティックインストラクションについて
以前にシステマティック・インストラクションについて調べた記事を書いたとき、システマティック・インストラクションが日本語では「最小限の介入による指導」のプロンプトの階層を示す言葉のように扱われていることを指摘した。
nekomosyakushimo.hatenablog.com
最近『ジョブコーチ入門』(エンパワメント研究所)の本を手に入れたので、その中での扱いを確認すると次のように書かれている。
システマティック・インストラクションは厳密に定義された方法論ではありませんが、基本的には「課題分析」と「最小限の介入による指導」の2つの要素から成っています。(p.66)
と、この時点(初版は2001年)では、システマティックインストラクションと指示・プロンプトの階層は分けて議論されている。
ただ同時にこの隣ページに例のピラミッドの図が出てきて、その後に階層毎の指示・プロンプトの具体例の紹介されているページが続く。そのインパクトが強かったことが前の記事で挙げたような混乱というか言葉の不正確な伝播に繋がったのかもしれない。