猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

学校コンサル本を読む

学校コンサルテーションを進めるためのガイドブック (学校コンサルテーションブック)

学校コンサルテーションを進めるためのガイドブック (学校コンサルテーションブック)

実務の都合で上記の本を読んだ。特別支援教育スタートあたりの本だけれど参考になる点は多々あった。

きっちりとまとめる時間がないので気になった箇所のみ抜粋しておく。

コンサルティ(先生・学校)との関係性について

学校コンサルテーションでは、コンサルティは、教育実践や教育管理の専門家であると考えます。(p.19)

あくまで、専門家と専門家の対等な関係性。

対等な関係でコンサルテーションを進めるためには、先生を批判しに来たのでなく、指導的な立場でないことを明言して、「通常の学級のことはよく分からないので教えてほしい」「こちらに相談に来ているお子さんについて、集団の場で指導するのは大変と思われる。学校ですでに行っている支援について教えて欲しい」などと話、学校や教師が余分な不安や抵抗を感じなくて済むような配慮をすることが必要です(p.27)

対等でないコンサルテーションもよく見るので・・・

最初の段階でコンサルタントは自分の専門を明らかにし、どういった支援が可能かについてできる限り明確に示しておくことが大切です(p.56)。

これは自分の経験からもそうで、自分が何者であるかを知っておいてもらうのは本当に重要。あと、何ができないかを伝えておくのも大事で、できなかったら他所につなぐことの検討(そのためのネットワークづくり)。

校内体制

地域を支える教育相談―教育相談担当者の役割 (障害のある子どもの教育相談マニュアル)

地域を支える教育相談―教育相談担当者の役割 (障害のある子どもの教育相談マニュアル)

これのp.92に支援分担表の例。(学校コンサル本ではp.29)

コンサルタントによるコーディネーター支援では、管理職に協力を求めるなど校内体制の整備も間接支援の一部(p.42)

コンサルテーションの内容

コンサルタントは、コンサルティに具体的な支援方法を提示することばかりを考える必要はありません。具体的な支援方法を提案することは支援のヒントにはなりあますが、このこと自体が学校コンサルテーンの本来の目的ではありません。重要なのは子どもの理解(見方)の視点を共有でき、コンサルティが実行可能な支援方法に気付くように支援をすることです(p.67)。

一時期、相談業務において自分は具体的な支援を必ず言うようにしていたが、コンサルテーションのこの考え方を知ってからは、子どもの行動の「なぜ」に答えることを意識している。でも、これに偏りすぎると「分かったけど・・で、どうすりゃいいの」という反応になるのでバランス大事。ただ、十分に対話の時間をとれるのであれば、視点を提供してコンサルティの支援を引き出す方が実行されやすい気がする。

Wechslerを読む

調べものの記録。Wechslerが何を書いていたか。Wechsler(1944)のThe Measurement of Adult Intelligence (3rd ed.)から。

成人の知能検査が必要とされた経緯

それまでの心理検査は大半が子供向けであって, その理由として, 子供のサンプルが集めやすかったことと, 成人向けより開発が容易であったこと, 検査結果の具体的な応用がしやすかったことが挙げられている。

大人についてのテストが本格的に始まったのは1917年で陸軍の徴兵テストであり, この時期までにStanford-Binet式は成人を測定することができるようになっていたが大量の徴兵において使用するには適していないということでArmy AlphaとArmy Betaが開発された。

ところが, あらたに得た成人データの精神年齢は, SBの標準化データよりも低く, 成人の精神年齢を推定する際には, 例えば, 16歳のデータではなく14,15歳のデータとして計算するべきだという主張や, 成人の平均はIQは100でなく88にするべきだという意見であったりと, 問題への対応法も乱立していたようである。

当時の知能検査事情として 大人の知能を測定する十分な道具はなく, 子供向けに作られた道具を成人に無理に使い続けることは科学的に正当化できないということがWechslerをこの検査の開発に向かわせたようである。

当時の成人向け知能検査の欠点として, 十分なサンプルでの標準化がなされていないこと,

It thus appears that with the possible exception of the Army Performance none of the currently used scales meets the very first prerequisite of a valid intelligence examination, namely the condition of having been standardized on a sufficiently large number of cases.(p.16)

使われる素材が成人に対して適していないこと、

Many of the test items do not seem to be of the sort that would either interest or appeal to an adult.(pp.16-17)

正確性より速度が重視する傾向があることが挙げられている。

Another limitation to the use of tests on adults, originally standardized on children, is that many of these tests lay altogether too much emphasis on speed as compared to accuracy.(p.17)

また, 精神年齢という概念がそもそも子供には適しているが成人には適していないことにも触れている。

The concept of mental age, fundamental as it is to the definition of juvenile intelligence, may be grossly misleading when applied to the definition of adult mental capacity.(p.18)

初期の積木模様に関する調べ物

調べ物の記録。

Kohsと積木模様

ウェクスラー系の心理検査に使われる「積木模様」(Block Design)はアメリカでKohsという人が開発したものがオリジナルである。Kohs(1920)の論文を見ていると、ビネー式の知能検査から、言語が与える要因を除くことが開発の動機として書かれている。聾者であったり、言語理解が乏しい場合でも検査が可能であり、そのことから人種間の違い(racial difference)の研究や言語の面でのハンデキャップがある人の精神機能についての研究への応用が視野に入っているとの記述がある。

Francis N. Maxfieldという人について

しかし、よくよく調べていくとこの検査はKohsがゼロから作った訳ではなくて、Maxfieldという人が作ったColor Cubeテストというものを下敷きにしているようである。このMaxfieldと言う人は調べてみると、ペンシルバニア大学のウィトマーのもとでPh.Dをとり、APAのClinical Sectionの最初の3年間のchairを務めたようなので、臨床心理学の最初期の人だと言えるだろう(Routh, 1994)。ちなみにMaxfieldがPsychological Clinicにきたのは1912年で、その後Clinicに1925年までいた後にOhio state Universityに移ったようである。

MaxfieldのColor Cubeテストについて

Maxfieldが作ったColorCubeテストについて調べてみているのだが、これの情報があまり出てこない。Hutt(1925)によれば、もともと"imageablity in children"を測定するために使われていたようであり、これは感覚野?(sense field)における正確な像を持つ能力だとされている。"Encyclopedia of Clinical Neuropsychology"をみても 「Hutt(1925)によればという書き方」であるため、MaxfieldのColor Cubeテストの詳細を知るのは難しいのかもしれない。

文献

  • Bettcher, B. M., Libon, D. J., Kaplan, E., Swenson, R., & Penney, D. L. (2011). Block Design. In J. S. Kreutzer, J. DeLuca, & B. Caplan (Eds.), Encyclopedia of Clinical Neuropsychology (pp. 419–422). New York, NY: Springer New York.
  • Kohs, S. (1920). The Block-Design Tests. Journal of Experimental Psychology, 3(5), 357–376.
  • Hutt, R. B. W. (1925). Standardization of a a color cube test. The Psychological Clinic, 16, 77–97.
  • Routh, D. K. (1994). The American Association of Clinical Psychologists, 1917-1919. In Clinical Psychology Since 1917: Science, Practice, and Organization (pp. 13–18). Boston, MA: Springer US.

ブリッグマン他『学校コンサルテーション入門』

学校コンサルテーション入門―よりよい協働のための知識とスキル

学校コンサルテーション入門―よりよい協働のための知識とスキル

  • 作者: グレッグブリッグマン,リンダウェッブ,ジョアナホワイト,フランムリス,Greg Brigman,JoAnna White,Linda Webb,Fran Mullis,谷島弘
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 2012/04/01
  • メディア: 単行本
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仕事の都合で読んだ。オリジナルのタイトルがSchool Counselor consultationであることからも分かるように、対象としている読者はスクールカウンセラーである。ただ、アメリカと日本ではスクールカウンセラーに求められる役割であったり専門性であったりは違っていると思うので、スクールカウンセラーでない読者にとっても有益な情報は多々あると感じた。

本書はスクールカウンセラーの重要な役割にコンサルテーションを位置づけており、その具体的な方法を提供している。理論的な枠組みとしてはアドラー派、認知行動派、行動派の組み合わせてた統合的なアプローチをとっていると述べている。以前に大学院でコンサルテーションについても少しだけ習ったが、本当に少しだけだったのでこの本を読んでだいぶ見通しが良くなった。

訳者あとがきでも述べられているが、本書の中心的な内容は4章・5章における事例コンサルテーションの実際についてだろう。コンサルテーションを5段階からなるモデルでとらえ、各段階で行うべきことが具体的に紹介されている。コンサルティとの間でなされるであろうやりとりやそれに纏わる諸問題が示されているので、コンサルテーションの実際を想像しやすい。5段階の枠組みは学校現場で自分が行なっている活動が何なのかわからなくなったときなどに自分の位置を整理するのに役立つだろう。

巻末に日本語で読める学校コンサルーテションに関する文献案内が載っているも個人的にポイントが高い(ブックリスト大好きなので)。ここを入り口にさらに専門性を高めることもできるだろう。

タラソフ判決と守秘義務

守秘義務について考えるときにはタラソフ判決というものが参考になるらしい。簡潔に言えば、クライエントが「おれは〇〇を殺すぞー」とカウンセラーなりセラピストなりに言っていて実際に〇〇に危険が差し迫っている場合には、カウンセラーなりセラピストは守秘義務の例外状況として、犠牲者になりうる人に警告したり警察に通告しなければならないということである。

ちなみにタラソフというのは殺されてしまった被害者の名前であり、事件の概要は次の論文に載っている。

アメリカにおける精神科医療過誤訴訟

ちなみにちなみに虐待が疑われるケースというのも守秘義務の例外のうちの一つである。

ウィトマーと「臨床」と

臨床心理学の臨床(clinical)という言葉を最初に使ったのは、Witmerという心理学者でこの人はヴントのもとで実験心理学で博士号をとった人のようである。この人はドイツからアメリカのペンシルバニアに戻ったあとで、psychological clinicを作ったことで知られている。

このクリニックでは学習障害や知的障害など学校での困難を抱える子供たちの治療を行なっていたようなので、カウンセリングとかを行なっていたわけではないようである。

そのウィトマーが1907年に自身が創刊したPsychological Clinicという雑誌で次のようにclinicalの意味を述べている。

While the term "clinical" has been borrowed from medicine, clinical psychology is not a medical psychology. I have borrowed the word "clinical" from medicine, because it is the best term I can find to indicate the character of the method which I deem necessary for this work. Words seldom retain their original significance, and clinical medicine, is not what the word implies,-the work of a practicing physician at the bedside of a patient. The term "clinical" implies a method, and not a locality. When the clinical method in medicine was established on a scientific basis, mainly through the efforts of Boerhaave at the University of Leiden, its development came in response to a revolt against the philosophical and didactic methods that more or less dominated medicine up to that time. Clinical psychology likewise is a protestant against a psychology that derives psychological and pedagogical principles from philosophical speculations and against a psychology that applies the results of laboratory experimentation directly to children in the school room.

Classics in the History of Psychology -- Witmer (1907)

引用の中に出てくるブールハーフェ(Boerhaave)とはオランダの優れた臨床教育を行なったえらいお医者さんらしい。

ヴントのもとで学んだウィトマーがどういう経緯で臨床に関心を移していったのか時間があれば調べてみようと思う(こう書いた場合には大体調べないのだけれど・・・)

【参考】 ウィトマーが「clinical」に込めた思い | 日本心理学会

相関係数の標本分布について

はじめに

『心理統計学の基礎』のp.114に相関係数の標本分布が図示されている。確率密度関数は数学的にかなり複雑だからとの理由で省略される代わりに近似的にその期待値を求める式が載っている。

 \displaystyle{  \mu_r = \rho -  \frac{ \rho (1- \rho^2)}{2N}
}

その標本誤差についてもやはり近似的に求める次のような式が載っている。

 \displaystyle{
 \sigma_r = \frac{ 1- \rho^2}{\sqrt{N}}
}

これらの近似的なものでもさして困らないのだけれど、どうせならどんな分布かを図示したいということで、シミュレーションである。

繰り返し乱数を発生させて分布を作る

とりあえず何も考えずに, (1) 2変量正規分布に従う乱数を発生, (2) 相関係数を計算, これをたくさん繰り返す。まぁ10000回ぐらいやってみましょうか。2変量の正規分布に従う乱数の発生にはmvtnormというパッケージを使う。

library(mvtnorm)
size <- 64
mu <- c(0,0)
rho <- 0.8
sigma <- matrix(c(1,rho,rho,1),nrow=2, ncol=2)
sample.cor <- numeric(10000)  # 保存用のベクトル

for (ite.datageneration in 1:10000){
  sample <- rmvnorm(n=size, mean=mu, sigma=sigma)
  sample.cor[ite.datageneration] <- cor(sample[,1],sample[,2])
}

それで計算された10000個の相関係数ヒストグラムにしたものが次の図。サンプルサイズは64で母相関は0.8(図中の赤線)である。

f:id:nekomosyakushimo:20190121001809p:plain

標準誤差の数式から明らかなように, サンプルサイズを増やせば標準誤差は小さくなる。母相関を固定したままNを256, 1024と増やすと次のようになる。

f:id:nekomosyakushimo:20190121001815p:plain f:id:nekomosyakushimo:20190121001825p:plain

Nが1024だと, かなりの精度はよくなる。

相関係数の標本分布を求める

ところで, 今のは力技シミュレーションによる図示だった訳だが, やはり相関係数の標本分布の確率密度関数をずばっと図示したいのでやってみる。

英語版WikipediaのPearson correlation coefficientの項を見ると, the exact distributionとして載っている。

Pearson correlation coefficient - Wikipedia

f:id:nekomosyakushimo:20190121010115p:plain

たしかに複雑だ。

 \Gamma はガンマ関数で、 \mathbf {_{2}F_{1}} (a, b; c; z)ガウス型超幾何関数だそうだ。とりあえず, 数式を見ながらrでこの式を関数にする。

d.samplecor <- function(r, rho, size){
  shisuu1 <- (size-1)/2
  shisuu2 <- (size-4)/2
  shisuu3 <- size - 3/2

  bunshi <- (size-2) * gamma(size-1) * ((1 - rho^2)^shisuu1) * ((1-r^2)^shisuu2)
  bunbo <- sqrt(2*pi)* gamma(size - 1/2)*((1-rho*r)^shisuu3)
  choukika <- hypergeo(1/2,1/2,(2*size-1)/2,(rho*r+1)/2)

  value <- (bunshi/bunbo) * choukika
  return(Re(value))
}

超幾何関数を扱うにはそのものずばりなhypergeoというパッケージがあるらしくてその中にあるhypergeo関数を使っている。これをインストールしないと途中で止まる。

で, この関数-1から1までの範囲でとりあえず積分してみる。

f:id:nekomosyakushimo:20190121002059p:plain

計算の結果は誤差が0.000072で近似値が1である。面積が1になったということで, とりあえず確率密度関数にはなったのかな?

これを, さっきのシミュレーションのヒストグラムに重ねてみると, どうやらちゃんと確率密度関数になっているっぽい。

f:id:nekomosyakushimo:20190121002033p:plain f:id:nekomosyakushimo:20190121002047p:plain

同じサンプルサイズでも母相関係数が違うと分布の精度はだいぶ違うものですね。

という訳で、無事に相関係数の標本分布の確率密度関数を図示することに成功した。というかなんで、自分はこんなことをやり始めたのだろうか?

ちなみに, この関数サンプルサイズが172ぐらいまでだと正しく計算できるけれど, それを越した場合にはガンマ関数の値が大きくなりすぎて計算不能になるのでご注意を。