猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

梅永雄二・服巻智子 著/監修『副読本:TTAP 自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィールTTAPの実際』

TTAPの研修会に行った時に買った『副読本:TTAP 自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィールTTAPの実際』を読んでいる。国内での実践事例をまとめた本だ。

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最初にTTAPの概要についての紹介がごくごく簡単にされて、続いて12の活用事例が紹介されている。それぞれの事例に対して、監修者の服巻先生がコメントをつけているスタイル。最後には、アメリカでのキャリア教育と移行支援におけるTTAPの位置づけが解説されている。

全般を通じて思ったこととして、アセスメント結果の報告の仕方を見ると顕著なのだが、いわゆる静的な(staticな)アセスメントとは大分違う。「〇〇な支援だと有効だった。」などと言ったような検査実施者の介入的要素に対する反応を報告していくところを見ると動的な(dynamicな)アセスメントの観点があるなぁと思う。

事例を読みながらメモしたことを残しておく。とりあえず、前半の6事例。

【事例1】
特別支援学校の作業学習での活用事例。具体的な指導目標を設定するために使うというよりは、支援方略の検討に活かす目的で活用している。行われている一つひとつの支援は実態に即しているのだろうけど、アセスメントの結果とのつながりがやや見えづらかった。「推奨される構造化」のページを示すなどもあれば、アセスメント結果の解釈と支援の根拠がつながってきたのではないかなと思った。

【事例2】
特別支援学校の作業学習における支援の2例を報告。この2例も、指導目標の設定のためではなく、支援の方略を探るためといった使い方である。アセスメントで通過した項目の構造化の要素を、作業学習の内容に落とし込んでいる例が紹介されている。学校現場で既に行われている授業の仕組みに載せようとすると、こういうタイプの事例報告が多くなるのかもしれない。

【事例3】
特別支援学校での学校生活全般に活かす事例。「TTAPのフォーマルアセスメントから①スケジュールやワークシステムの導入、②選択肢の提示による意思表出が有効であると考えられる。」と単に書いてあるのだが、アセスメントの結果のどの部分から、どういう風なスケジュールやワークシステムを導入するが有効だと考えられたかのプロセスを示してこそ事例の価値があるのではないかと思った。(おそらく「構造化による支援方法の提案」の部分を参考にしているのだろうが、だったらそのページこそをこの事例報告に載せるべきではないのだろうか。)

【事例4】
特別支援学校でワークシステムの導入に活かす事例。事例1や3と同じで、各項目から支援方略につなげるプロセスをもう少し丁寧に書いてほしかった。行われている支援としては、「①強化子の活用とワークシステムの導入、②言語に頼らない指示の必要性、③表出性コミュニケーションの不足を補う」など。ちなみにこの実践に対する服巻先生のコメントの中でリワードシステムという言葉が使われているがどの程度流行っている言葉なのだろうか。

【事例5】
特別支援学校で表出性コミュニケーションの支援に活用した事例。尺度間の違いに注目して、高い得点の出た学校/事業所尺度で行われている支援を様々な場面に活かすことを検討している。尺度毎に違った得点を出す魅力がここらへんにあるなぁと思うが、校内で追加して行った支援は書いてあるが、家庭での機能的コミュニケーション改善に役立てたかどうかは報告されていない。

【事例6】
特別支援学校で進路指導の支援に活用した事例。フォーマルアセスメントから有効な支援の在り方を検討し、それを基に体験実習先の環境調整、ケース会議、「進路サポートシート」、現場実習でのインフォーマルアセスメントの実施と、トランジッションに役立てているプロセスが分かり大変参考になる。移行のために使われるときにこそ真価を発揮するアセスメントだなぁと思う。


とりあえずここまで。



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自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィール―TTAPの実際

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