ワトソンほか『自閉症のコミュニケーション指導法:評価・指導手続きと発達の確認』
自閉症のコミュニケーション指導法―評価・指導手続きと発達の確認
- 作者: リンダ・R.ワトソン,エリックショプラー,キャサリンロード,厚地友子,神尾陽子,金野公一,内山登紀夫,幸田栄
- 出版社/メーカー: 岩崎学術出版社
- 発売日: 1996/04
- メディア: 単行本
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久々に臨床よりの本を読んだ。TEACCH関連でコミュニケーションについて書かれたものの中では一番包括的でかつ、手順も具体的なので自閉症のコミュニケーション指導をする際には大変参考になると思う。
特に、コミュニケーション・サンプルの扱いには最も詳しく書かれており、いままで使い所が良く分からなかったものが大分納得のいくものになった。
やや古い本で、他の本(例えば『TEACCHハンドブック』)にあるコミュニケーション・サンプルなどの記述と違う点もあるが、それがプログラムが発展していく中で起きたことなのか、紙面の都合で他の本では端折られた内容なのかは分からないが、この本に書かれている手続きは今までも参考になる部分が多々あると思う。
以下に、私の書きなぐったメモを残す。2、3日でざっと読んだものなので、引用や要約の間違いがある可能性もあり、正確な情報を知りたい方は実際に本を手に取ることを強くおすすめする。(絶版だけど)
1章 序章
- コミュニケーションの自発が評価の基礎。刺激に対する反応とは別のものとして考えたい
- 次の5つの次元で評価とプログラムを作成:機能、形態、セマンティックカテゴリー、単語、文脈
- 次元を複数設定することでスキルの柔軟な組み合わせなど指導プログラムに幅を持たせる
- 既習得スキルと未習得スキルの概念の導入
- ある既習得が別の次元で自発されていない場合、その次元での自発を目指す
コミュニケーション指導の簡単な歴史
- 精神分析アプローチ:言語を直接扱わなかった
- 行動分析的アプローチ:汎化の問題の指摘
- 行動理論からの二つの新しい流れ
- 多様の課題や複数の指導者、機能性の強調、自然な強化子、偶発的指導法
- 代用形式(サイン言語など活用)
- 心理言語学アプローチ:定型発達の言語とコミュニケーション能力の発達の知見を適用
- TEACCのコミュニケーション指導は、行動理論と心理言語学の影響が大きい
- 行動理論からは行動形成の手続きなど
- 心理言語学からはコミュニケーション行動のカテゴリー化 → 指導目標の明確化(機能性と語用論との結合)
- 複雑な形式の獲得を目指すより、より多くの場面でより多くの目的を持って、より多くの意味の獲得 を目指す
第2章 TEACCHモデルの概要
- 前半はTEAACHプログラムの解説
- 後半はコミュニケーションを5つ次元からとらえる視点の提示。本書の核となる考え方
- 機能または目的
- 文脈または状況
- 意味のカテゴリーまたはセマンティックカテゴリー
- 単語、ジェスチャー、サイン言語
- コミュニケーションの形態
- セマンティックカテゴリーとは、アイディアや概念を伝達するために使われる単語の意味を示す
- 典型的なのは、動作に関するもの、行動している人、動作の対象となる物、物の場所
- 次の引用なんかは「芽生え」を重視する実にTEACCHらしいもの
何から取り組むかを決めるよりむしろ、最も成功の確率が高いのはどれかを発見することにあるだろう(p.39)
3章 コミュニケーションの評価:プログラム作成のための基礎
芽生え大事感はここでも:
ここでの評価の目的は、子どもが現在持っているコミュニケーション・スキルを確認し、指導によって変化が期待できそうな点を見つけ出すことである。(p.40)
評価のもう1つの目的:その子どもにとっての一番重要なものの決定
- 評価のための3つの道具:コミュニケーション・サンプル、親への質問、ゴール優先順位記録用紙
- プログラムのゴールは、実現可能か、達成して日常のコミュニケーションにとって意味あるか、親がそのゴールを評価しているか、の3つの基準で決定
- コミュニケーション・サンプルは自発的なコミュニケーションに限定
- コミュニケーションの意図を持った行動のみを記録するべし
テスト質問への応答は記録しない - 考え方として、自然場面での自発的なスキルはその生徒に実際に役立っている → 既習得スキル
自閉症児の持っているスキルというものは、構造化された場面や人に促された場合にはそのスキルを使えるが、自発的には使えないというものがきわめて多い。一方この事実とは逆に、自発的に、その子どもが1人で使っているコミュニケーションを注意深く観察すると(構造化された場面での子どもの反応だけに着目した場合と比べて)、ふだん見落としているコミュニケーションの内容や方法がいろいろあるのに改めて驚かされる。(p.44)
能力低くて自発ない生徒の場合は、サンプルを長時間にする、あらゆる形態や徴候に注目、注意深く観察しても自発しない場合は誘発する環境設定、それでもダメな場合、強化子に注目
- サンプルの時間は一般的には2時間、あるいは自発的なコミュニケーションが50回観察されるまでを、目安に(ふつう、年1回か2回とれば十分)
- いくつかの異なった文脈での観察が重要
4章コミュニケーション・サンプルの分析
コミュニケーション・サンプルの主たる目的は、生徒の現在のスキルについての情報を集めることである。(p.50)
- セマンティックカテゴリーの乱は言語の場合のみに使い、主たる単語がコード化される
- サンプルのまとめとしてコミュニケーション評価サマリーへ記入する
- 評価サマリーでは、次元ごとに、汎用可能なスキル、限定的なスキル、観察されないスキル、適用なしなどを記入(あくまで既習得スキルの分析が主眼)
5章 ゴールの設定
- ゴール設定には3つのレベル:
- 長期的見通し、実際には外れることもあるし、親と専門家で食い違うこともままある
- 中間的ゴール: 教師と親にプログラムの優先順位をつけてもらうのもこのレベル
- 当面の目的レベル
1回かそれ以上のほんの何回かの指導を通してすぐに成果が見込まれそれが測定可能な特定の達成課題として明示することができるものである。82 - 1度にひとつの次元を教えていく。複数の次元を同時には教えない
- コミュニケーションの代替は複数あっても良い(たとえば、絵カードとサイン言語)という研究もあるようだ
6章 家庭における評価と優先順位
- 学校の補足的情報として家庭での評価を用いる
- 両親が何を優先しているかを知ることにもなる
- インタビューからの評価サマリーへの記入(学校と家庭の現在の水準を包括的に評価)
- ここまでの評価のプロセスのまとめ:
- コミュニケーション・サンプルを取る。
- 使用されるセマンティック・カテゴリーに従って、サンプルを分析する。
- 使用されるコミュニケーションの昨日に従って、サンプルを分析する。
- 文脈、形態や単語のまとめに沿って、コミュニケーション評価サマリーに情報を集約する 5.ゴール優先順位記入用紙を用いて、とりあえずゴールを決める。
- 家庭における評価インタビュー用紙を用いながら、両親とのインタビューを進める。
- 両親と教師はそれぞれのゴールについて話し合って検討し、次年度のためにゴールを絞っていく。(p.118)
7章 指導目標の選択
- 指導目標は、毎日の指導活動の基本
- ゴールを達成するために、一つずつ乗り越えるステップの設定が目標設定
- 原則は現在の自発するスキルをベースに設定
- 他の4つの次元で習得しているスキルを調べて設定
- 日常環境で機能する有益なものを設定
- 最初の目標を設定したら、それを拡張・発展させてゴールに向けていく
- 後半は具体例の紹介
8章 いろいろな教育方法
- 教育場面として、構造化された指導、偶発的指導、環境を利用する方法(教師が機会を作り出す)
- 目標の達成基準の設定を事前にしておく
- 進捗の確認としての記録は、プログラム変容の基礎資料、周囲との共通理解、教師のやる気の維持などに有効
- 新しいスキルの導入時には最も詳細な観察が必要(プロンプトの種類も服じめて)
- 同じ目標を続けて指導する際は、ふつう観察の頻度を減らせる
- 偶発的指導など集中的でない場合は頻度の記録が適切
集団指導
- 集団指導の利点は、生徒の発達促進と教師の効率的な時間利用
- 集団指導の問題点は、1対1の学習が容易には般化されないこと、個個に応じた目標設定の必要があるが集団活動とのバランスをとる難しさ、自閉症の行動上の問題への対応が個別指導場面よりも難しいこと、進捗の観察の難しさなど
- 近くに他人がいてもOK → クラス集団でも混乱しない → 集団環境で教師に注意を払ったり、適切に反応したり → 仲間を意識したり行動模倣 → 相互作用
親との協力
- 評価の段階から子どもの専門家として協力
- 家庭での指導カリキュラムは、毎日のコミュニケーションスキルの向上という点での長所
- 学校で獲得したスキルを新しい場面で活用という点でも効果的
- 話し合いの機会を定期的にもつことが、学校・家双方のプログラムの効果を促進
9章ゴール達成への指導活動
- 活動例の紹介がメインの章
5つの次元でそれぞれの指導お活動例が提示されており、生徒に合わせた活動の個別化の手順の具体例が示されている