猫も杓子も構造化

発達障害、特別支援などについて書いています。最近は心理学関係の内容が多めです。

猫も杓子も今年の3冊【2017年】

昨年、一昨年とやっているので今年も良かった本の紹介を。

【昨年までの記事】
猫も杓子も今年の3冊【2016年】 - 猫も杓子も構造化
猫も杓子も今年の3冊【2015年】 - 猫も杓子も構造化


今年は自分の身分的なところにそれなりの変化があり、本を読む時間は昨年より大幅にあった・・・はずなのだけれども、調べ物の最中で読んだり、必要な部分だけを読むような細切れの読書をしていた感が強くて1冊の書物として読んだ!という感じがまるでしない。そんな、読書経験としては貧弱な1年だったけれどもその中でコレはと思ったものを。

自閉症関係

自閉症の現象学

自閉症の現象学

今年自分が読んだ本の中で一番インパクトが強かったのはこれでしょうか。自閉症の理解の枠組みとして哲学を援用するというのは、今までにもないことはないのだけれども、この本はそういう本とも少し違っている。自閉症の経験世界を現象学というアプローチで描き出すことを通じて、現象学を含む既存の哲学や人間理解の在り方を組み換えようとする。そういう意味で大変に野心的な本だと思う。「はじめに」から少し抜き出してみよう。

自閉症は、哲学における既存の前提を全面的に組み替えることを要求する。自閉症は西欧哲学が考えることのなかった人間経験の地平を提示している。そもそも人間の経験の構造は一つには固定できないのだ。自閉症は人間の可能性の地平を拡げる。あるいは自閉症に照らされることで哲学も相貌を新たにすることになる。(p. v)

自分自身が咀嚼できているかといわれると自信は全くないのだけれども、とにかく読み応えのありパワーのある本だった。今後も時間をかけて消化していきたい。

心理学関係

これを読んでいたのは昨年の大晦日なので正確には昨年の読書なのだけれども紹介する機会がなかったので今回に合わせて。神経心理学の立場から、高次脳機能障害の解説およびそのリハビリテーションを紹介している。この本は、高次脳機能障害やそのリハビリについての入門およびレファレンスとしても役に立つのだが、それ以上に、神経心理学を他の心理学との関係性の中で論じた1章「心理学的方法論」や、障害を治療することの意味についての哲学的な考察である2章「「障害」と「治療」の意味」がとても勉強になる。障害およびリハビリテーションの意味を、「自由性の障害」というアイデアと関連付けながら、治療の根源的な意味を問う2章の論考は、リハビリテーションや障害者支援に関わる人間が真摯に向き合わなければならないテーマであり、考えさせられることのとても多い読書だった。

統計関係

「みどりぼん」の愛称で親しまれている。この本の主張をすごく大雑把に言ってしまえば、説明のためのモデルを組みたてる際に、モデルに合うようにデータの側を加工するのではなく、データに合うようにモデルの組み立て方を適切に選択しましょうということだと思う。心理学を中心に統計をかじってきた身としては、基本的に誤差が正規分布する世界(いわゆる一般線形モデル)で生きてきた訳で、その世界を相対化して一般化線形モデルまで拡張することができて大分見通しが良くなったように思う。現状の「有意差」の扱われ方などを批判的にとらえつつ脚注にちょいちょい挟んでくるスタイルが結構好みである。
 基本的にはコードは全てRで動かすのでRについての入門をしてから読むと良いでしょう。